第3話 危険な出会い
昨夜から、ケスバラレイムとクロバラメイムは、ジェノバによる連続殺人事件を捜査するために、ヴァレンタイン城にしばらく滞在することになった。ケスバラレイムは、見晴らしのいい最上階にあるロココ調の豪華な客室が用意されたが、一方の助手のクロバラメイムは、二階の踊り場近くにある、やや日当たりの良くない部屋を与えられた。
クロバラメイムは、ケスバラレイムとの待遇の格差に不満を抱いていた。どう考えても、自分の方が、ケスバラレイムよりもずっとジェノバ連続殺人事件と真摯に向き合えると思っていたからだ。とはいえ、今更、こんな真夜中にケスバラレイムと部屋を交換してもらえるはずなどない。
「ああ、イライラして眠れないよ」
そんな時こそ、クロバラメイムは自分の黒薔薇の匂いを嗅いで、気分を落ち着かせるのである。だが、もちろん、彼の黒薔薇にそんな効果はない。自分の黒薔薇には、癒しの効果があると、勝手に思い込んでいるだけなのである。
「くぅ、僕の黒薔薇は、なんと芳しい匂いなんだ!」
クロバラメイムは、自分の匂いに酔いしれ、何度も深い呼吸を続ける。そして、黒薔薇の匂いを存分に嗅いだことにより、荒んだ心が次第に穏やかになってゆくと、自然と睡魔に襲われ、そのままベッドに横になってしまった。長旅の疲れが溜まっていたせいで、彼は、すぐにいびきをかいて爆睡した。
この日の夜、クロバラメイムは、珍しく奇妙な夢を見た。いつもなら、黒薔薇が咲き乱れるお花畑で伸び伸びと駆け回る夢を見るのに、今夜の夢の舞台は、薄気味悪い、廃墟のような古城であった。
「ないっ! ないっ! 僕の大好きな黒薔薇がどこにもないっ!」
もちろん、クロバラメイム以外に、人の気配はない。周囲を見渡すと、窓ガラスは、あちこち割れて、蜘蛛の巣がいくつもある。朽ち果てた家具が倒れ、そのすぐそばには、真っ赤な血を流して、横たわる鴉の亡骸があった。
「どうして、黒薔薇がないんだっ!」
やや錯乱気味のクロバラメイムが、カビ臭い廊下をしばらく進むと、草が生い茂った中庭に到着した。
「なんだ、ここは?」
おそるおそる中庭に足を踏み入れると、クロバラメイムは噴水のそばに置かれた、薄汚れた棺を発見する。
「棺? なんでこんなところに……」
クロバラメイムが、棺に近づくと、棺の蓋がゆっくりと開いた。まるで、彼のことを歓迎しているかのように。
(一体、この中に何が……)
クロバラメイムは、おそるおそる棺の中を覗き込んだ。すると、そこには、美しく咲き乱れる白百合に囲まれた、ミイラの死体が横たわっていた。頭髪は抜け落ち、焦げ茶色に干からびたミイラは、ケスバラレイムと同じ、真新しい赤いドレスを着ている。
「ひいっ!?」
クロバラメイムが後退りをすると、ミイラは突然起き上がり、棺の中から出て来た。
「どうして、ミイラが動き出すんだ!? 死んでいるはずなのに!?」
ミイラは、クロバラメイムにゆっくりと近づき、彼のことを捕まえようとする。クロバラメイムは、ミイラの手を振り払った後、慌てて、中庭を飛び出した。
「はぁっ! はぁっ!」
クロバラメイムは、夢中で逃げ回った。まだ、後ろから足音が聞こえて来る。一体、どこまで逃げればいいのか。不安と恐怖で、混乱状態に陥りながらも、とりあえずひたすら走り続けた。
「あっ! とっ、扉だっ! 扉があるぞ!」
しばらく逃げ惑っていると、百合のレリーフが彫られた扉の前に辿り着いた。少し開いた隙間からは、微かに光がこぼれる。
(間違いない! あの扉は外に通じているはずだ!)
そう思ったクロバラメイムは、勢いよく扉を開けた。
「なっ! どっ、どうして……」
クロバラメイムは、目の前の光景に驚愕した。
「さっきの中庭じゃないか!?」
どうやら、先程の中庭に戻ってきてしまったらしい。その証拠に、クロバラメイムの視線の先には、蓋が開いた状態の棺が置かれている。
「はっ!」
肩に冷たい手のぬくもりを感じたクロバラメイムが、おそるおそる後ろを振り向くと、そこには、あの赤いドレスを着たミイラが立っていたのである。
「見つけた。私の王子様……」
クロバラメイムは、ミイラに追いつかれたことよりも、喋ったことに驚いてしまった。
「ひょえええええええぇぇぇっ!!」
ここで、クロバラメイムの悪夢が終わった。
目を覚ますと、すっかり夜が明け、窓の外から雀の鳴き声が聞こえてきた。
「はっ! 僕としたことがっ! こんな寝心地の悪いベッドで眠ってしまうとは」
太陽の光に横顔を照らされた、クロバラメイムは、慌ててベッドから起き上がった。そして自分の愚かさを責めながらも、純白のシュミーズを脱いで、漆黒のスーツに袖を通した後、壁掛けのミラーの前に立って、寝癖を直し始める。
「むむっ!? 意外と強者だな、この寝癖はっ」
何度水をつけても直らない寝癖は、身だしなみにうるさい彼をひどく悩ませる。しばらくの間、クロバラメイムが寝癖と葛藤していると、突然、部屋の出入り口の方からノック音が聞こえてきた。
「誰だ? こんな忙しい時に」
クロバラメイムは苛立ちながらも、出入り口の方に向かい、扉を少しだけ開けた。
「あの、今お取り込み中なんだけど……」
「おはよう、クロバラメイム!」
「うおっ!」
クロバラメイムは、いきなり薄桃色のウール・ツイルのデイドレスを着たティファニーに抱きつかれてしまう。
「ちょっと、君、いきなり何をっ!」
だが、この時のクロバラメイムは、まだ半ば強制的にダンスの相手をさせられたティファニーだとは気づいていなかった。見知らぬ娘に抱きつかれたと思い込んでいたクロバラメイムは、激しく動揺してしまう。
「やっぱり、まだ部屋にいたのね!」
ティファニーが嬉しそうに言うと、クロバラメイムは、すぐに彼女の二の腕を掴んで、無理矢理引き離した。
「君は一体、何者なんだ! どうして僕の名をっ……」
「ひどいわ、クロバラメイム。昨日の夜、一緒に踊ったのに、もう忘れてしまったの?」
ティファニーが悲しそうな目つきで、クロバラメイムの顔を見つめた瞬間、彼は、声を張り上げながら、彼女の顔を指差して後退りをする。
「ああっ! きっ、君は、あの時の小娘!」
「失礼ね! 私は、小娘じゃないわ。二年前から華々しい社交界でダンスを披露をする、立派なレディーよ」
社交デビューを果たしてから現在に至るまで、ティファニーのダンススキルは壊滅的であった。
「そんなことより、どうして、君がこんなところにいるんだ? もうパーティーはとっくの昔に終わったはずじゃ」
なぜ、殺人鬼が潜んでいるかもしれない、この危険な城にティファニーがいるのか。すっかり頭の中が混乱していたクロバラメイムには、理解出来なかった。
「だって、ここは、私のお祖父様のお城よ」
「お祖父様のお城……ということは、君はっ」
「私は、ティファニー・ヴァレンタイン。私も、このお城でお祖父様たちと一緒に束の間の社交シーズンを過ごしているのよ」
「そんな――ヴァレンタイン侯爵に孫娘がいたなんて、僕は聞いていないぞ」
クロバラメイムが呆然としていると、ティファニーは強引に彼の右腕に抱きついた。
「ねぇ、クロバラメイム。私、もうお腹空いちゃった。一緒に朝食でも食べましょ!」
「えっ、いやっ、ちょっと待ちたまえ。まだ寝癖がっ……寝癖がぁっ!」
支度の途中でクロバラメイムは、昨夜の仮面舞踏会と同じように、また強引に部屋から連れ出されてしまった。
ケスバラレイムは、城のテラスで、丸テーブルの席に座り、新聞に目を通していた。新聞の見出しには、昨夜、ヴァレンタイン城で発生した連続殺人事件の記事が掲載されていたのである。ケスバラレイムが優雅にローズティーを飲んで、再び次のページをめくろうとすると、かんかんに怒ったクロバラメイムが現れた。
「先生! 一体、どういうことですか!?」
ケスバラレイムは、流し目で、クロバラメイムの顔を見た瞬間、にやりと笑った。
「あら、もうガールフレンドが出来たの?」
クロバラメイムの斜め後ろには、すでにティファニーがいたのである。
「ちっ、違います! 勝手について来ただけですよ!」
「あら、そうなの」
ケスバラレイムはそう言って、次の記事に目を通す。
「それより先生! 勝手に僕の名前を教えるのは、やめていただきたい!」
「だって、どうしても知りたいって言うから……ねぇ?」
ケスバラレイムがそう言って、ティファニーを見つめると、彼女は頬を赤く染めて、照れ臭そうに微笑む。
「先に言っておきますが、僕はこんな小娘などに興味はっ……」
「ねぇ、マダム。クロバラメイムのこと借りてもいい?」
「えぇ、もちろんよ。今日は天気がいいから、一緒にピクニックに出かけてみたらどう?」
ケスバラレイムはにこりと笑って、快く承諾した。
「勝手に話を進めるのはやめていただきませんか、先生? 激しく迷惑です!」
「ピクニック! いいわね」
ティファニーは、目を輝かせながら、ケスバラレイムの提案をすぐに受け入れる。
「クロバラメイム! 今から、近くの公園で一緒にピクニックしましょう!」
「断る! 僕は君と呑気にピクニックをしているほど、暇じゃないんだ」
「嘘よ。本当は暇だけど、女の子と遊んだことがないから、緊張して、変な意地を張っているだけよ」
ここでケスバラレイムは、ティファニーに告げ口をする。
「えっ? クロバラメイムって、女の子と遊んだことないの?」
「お前らなんかに、モテないバラ臭い男の気持ちなんか分かるかよおぉぉっ!」
女性経験ゼロのクロバラメイムは、目に涙を浮かべながら、ケスバラレイムとティファニーの前から逃げるように立ち去った。
「あっ、ちょっと待ってよ、クロバラメイム! どこに行くのよ!?」
ティファニーは、慌ててクロバラメイムを追いかけた。
「ふう、相変わらず演技が下手ね、クロバラメイム」
ケスバラレイムは、そう言って、再び温かいローズティーを飲んだ。
その頃、居間では、クロードとカーティスが、週末に行われる予定の仮面舞踏会を巡って、言い争っていた。
「旦那様、やはり、次回の仮面舞踏会は中止すべきです」
「しかし、すでに招待状を出してしまった。それに……」
「確かにヴァレンタイン家にとって、仮面舞踏会は大事なイベントであることは重々承知しております。しかし、これ以上、被害者が出てしまえば、ヴァレンタイン家に向けられる世間の目はいっそう厳しいものになって……」
「やると言ったら、やるの」
「アイラ」
「アイラ様」
クロードとカーティスの視線の先には、白い絹シフォンのツーピース・ドレスを着た、赤髪の美貌の女がソファに座り、扇子を仰いでいた。彼女の名前は、アイラ。クロードの恋人で、この城にやって来る前は、パリのキャバレーでダンサーをしていた。今は、この城で開催される仮面舞踏会の主催者である。
「カーティス、世間体を気にし過ぎよ。ジェノバごときで、舞踏会を中止にするなんてあり得ないわ」
「ですが、すでに七名ものご夫人が亡くなっているのですよ! また仮面舞踏会を開催すれば、新たな被害者がっ!」
ここでアイラは、扇子をカーティスに向かって投げつける。
「お黙り! 執事のくせに、いちいち私のやり方に口出しするなんて生意気よ!」
「ちっ、違います! 私は、ただ旦那様やアイラ様の名誉を思って」
「それが余計なお世話だって言ってんのよ!」
気性の荒いアイラは、声を張り上げる。以前から、自分のやり方にいちいち小姑のようにケチをつけるカーティスが気に食わなかったのだ。
「あんたは、黙って、私やクロードの言う事だけを聞いていればいいのよ!」
カーティスが、どんなにアイラに責められていても、彼女を恐れているクロードは何も反論することなく、ただ黙っていた。アイラの言いなりに成り果てているクロードの姿を目にしたカーティスは、ますます苛立ちを募らせる。
(なぜ、こんな野蛮な女の言いなりになっているのですか、旦那様? あなたは、このヴァレンタイン城の主であるのに。私には理解出来ません)
怒りに震えるカーティスは、歯を食いしばり、拳を握り締めながら、アイラを睨みつける。
「分かりました。もう勝手にしてください。私はもうこれ以上何も口出しはいたしません。失礼いたします!」
「カーティス!」
クロードは呼び止めたものの、カーティスは居間から飛び出すように去って行ってしまった。
「放っておきなさい、クロード」
「だが、しかし、そういうわけにはいかんのだ。カーティスは、執事といえど、もう十年近く、このヴァレンタイン城に仕える、立派な家族だ」
クロードは弱々しい声で、アイラを説得するが、彼女の心に響くはずなどなかった。
「それがなんだと言うの? 私に歯向かう人間は、全員消えるわよ」
「どっ、どういう意味だ」
クロードが青ざめると、アイラは立ち上がり、彼の頬を撫でるように片手で触れた後、耳元でそっと囁く。
「私にはジェノバがついているのよ。私の意志は、ジェノバの意志。つまり、私に逆らったら、あの女たちみたいに消されちゃうのよ」
「そんな――ジェノバが城主である、この私の命まで」
「死にたくなかったら、大人しく私の言うことを聞くことね!」
アイラは、クロードを脅した後、勝ち誇った笑みを浮かべながら、居間を出て行った。すると、クロードは、壁に寄りかかり、青ざめた表情をして、壁に掛けられたジェノバ・ヴァレンタイン伯爵の肖像画に目を向ける。黄金の蝶のアイマスクをして、若い娘と楽しそうに踊る姿が、そこには描かれていた。
ティファニーは、突然逃げ出したクロバラメイムを追いかけていたが、すっかり見失ってしまった。
「はぁ、どこに行っちゃったのかしら、クロバラメイム?」
溜息をつきながら、ティファニーが一人、赤い壁の長い回廊をとぼとぼと歩いていると、背後から無精髭を生やしたポール・ヴァレンタインに声をかけられた。
「よう、ティファニーじゃねぇか」
すると、ティファニーは後ろを振り返った。
「あら、ポール叔父様」
「どうした? 浮かねぇ顔をして」
可愛い姪の元気のない姿を見て、ポールは心配する。
「人を探しているの」
「人?」
「そう。バラ臭い男の人を見かけなかったかしら?」
「バラ臭い男? うーん、そんな怪しい奴は見かけてはいねぇけど、さっき、一階の中庭に通じる鏡の回廊から、強烈な薔薇の匂いが漂っていたぜ」
「本当に? 匂いがしたのね!」
「おっ、おう」
「ありがとう、ポール叔父様! それだけ分かれば十分だわ!」
ティファニーが、すぐにポールにお礼を言って、鏡の回廊の方に向かって歩み出した時、何かを思い出したように立ち止まり、再び彼の方を振り返った。
「あっ、お礼に良いことを教えてあげるわ!」
「ん? 良いこと?」
「そう。テラスに叔父様好みのとっても綺麗なご夫人がいらっしゃるわよ」
その瞬間、女好きのポールは嬉しそうに、下品な微笑みを口角に浮かべたのであった。
クロバラメイムは、不敵な笑みを浮かべながら、城の裏門から人気のない森の中へと足を踏み入れる。
(ふふふっ、ティファニーのやつめ。僕の圧巻の演技に見事に騙されたな)
クロバラメイムは、わざと大袈裟な演技をして、ティファニーから逃れることに成功した。
「これでやっと僕は自由の身だあぁぁっ!」
喜びを噛み締めたクロバラメイムが両手を広げて、薄暗い森の中をのびのびと走っていると、背後から何かが猛烈なスピードで駆け寄って来るような音が聞こえてきたのである。
「ん? なんだ?」
クロバラメイムが後ろを振り向くと、鼻息の荒い馬が立ち止まった。馬には、ハンティング・スーツを着た、ティファニーと同い年くらいの少女が跨り、猟銃を構えていた。
「お前が、ティファニーにちょっかいを出している、ふしだらな男ね!」
少女はそう言って、害虫を見るような目つきで、クロバラメイムを睨みつける。
「ちょっと待ちたまえ! それは誤解だ! 僕は彼女に何もしていないぞ!」
だが、彼女の表情を見る限り、彼の訴えは心に響いていないようだった。その事実を悟った、クロバラメイムの気分は、まさに天国から一気に地獄に落ちてしまったのである。
(ひょえぇぇっ! なんでこんな展開になっちゃうの!?)
クロバラメイムが両手を上げて、足をがくがくと震わせながら、己の潔白を訴えると、少女はいきなり猟銃の銃口を彼の頭に向けた。
「言い訳する男は大嫌い!」
少女はそう叫んだ後、容赦なく引き金を引いた。
二人を見送った後、ケスバラレイムの目の前には、クロテッドクリームが添えられたパンケーキとコーンスープ、そして、ベーコンとオムレツが乗せられたお皿が次々と並べられた。ローズティーを一口飲んだ後、ケスバラレイムがナイフとフォークを手に持って、小さく切り取ったオムレツとベーコンを口に運ぶと、クロード・ヴァレンタイン侯爵の次男である、ポール・ヴァレンタインが、彼女の前に現れる。
「よう、あんたが噂の探偵貴婦人か?」
「ええ、そうだけど、何か私に用かしら?」
「想像以上に良い女だな。こんなところで飯を食っているなんて、勿体ないぜ。なぁ、この後、俺のベッドの上で一緒に遊ばねぇか?」
一目見ただけで、ケスバラレイムの美貌にすっかり惚れ込んでしまったポールは、すぐに彼女を誘う。
「残念だけど、女にだらしない男に興味はないわ」
「おいおい、見た目だけで判断するのは……」
ポールがそう言いかけた時、ケスバラレイムは鼻の先端をピクピクと動かした。
「香水の匂いがまだ残っているわよ」
すると、ポールの胸がどきりと立った。
「さすが、ただの女じゃねぇってことか」
「あまり女を舐めると、痛い目見るわよ。それに名乗る前に、女を口説くなんてマナーがなっていないわ」
「ふっ、おまけにマナーにもうるせぇ女ってわけか」
ケスバラレイムが、ポールに忠告をすると、彼は突然、彼女の向かい側の席に座る。
「自己紹介が遅れて悪かったな。俺は、ポール。あの頭の固い城主の息子さ。そして只今、絶賛花嫁募集中ってところだ」
「言っておくけど、私は、あなたの花嫁になるつもりはないわ」
「じゃあ、ジェノバの花嫁になるために、ここにいるってわけか?」
ここでケスバラレイムは、パンケーキを切る手を止めて、ポールを見つめた。
「ジェノバのことを何か知っているの?」
「やっぱり、あんたもジェノバ目当てでこの城に来たんだな?」
「……」
「ふっ、図星かよ」
ポールは、歪んだ笑みを口元に浮かべた後、ケスバラレイムに忠告した。
「悪いことは言わねえ。今のうちに手を引け、マダム。ジェノバにのめり込んだ女は次々と命を奪われちまった。あんたも、今のうちに手を引いておかないと、ジェノバにあの世に送られてしまうぜ」
ポールが言い終えた瞬間、突然、森の方から銃声が轟いた。
「うふふ」
ケスバラレイムは、突然笑い出す。
「何がおかしい?」
「そんなことを言われたら、ますます欲しくなっちゃうじゃない」
この時、ポールは、ケスバラレイムの瞳に宿る悍ましい貪欲さと狂気に密かな恐怖を抱いてしまった。
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