Mission12 自分に素直に
「先程、
「うん、その話の途中だったよね」
……後で、謝罪とお礼を言わねばなりませんね……。
ですが今は、目の前のことに集中せねばなりません。
「
「全ての書物を……!? すごい……」
「ええ。……先程の、
紅茶を飲み、喉を潤します。そうしたら、音を立てぬようティーカップを置き、静かに息を置いてから、再び口を開きました。
「しかし、その異能力の代償は……『激しい眠気に襲われるものの、眠ることが出来ない』、というものです」
「眠れない……」
「はい……そのせいで
自嘲気味に笑います。……こういう話は、逃避に過ぎないのでしょう。代償のせいにして、特にそれをどうにかしようと、本気で考えてはこなかった……。それを逃避と言わず、何と言いましょうか。
「……辛かったね」
しかし音宮先輩は、そう言ってくださいました。
「俺は毎晩ぐっすり眠れてるから、その辛さがどれ程のものか、正確には理解出来ないけど……辛かったでしょ。ずっと、そんな……」
音宮先輩はそこまで言いかけて、口を閉ざします。そして、困ったように笑い。
「ごめん……上手く、言えないや」
「いえ……そう言っていただけただけで十分です。……ありがとうございます」
辛かった。そう、共感してもらえた。
家の者以外の方が、初めて
「……あ、俺の異能力なら、氷室さんの役に立てるかもしれない」
「……え?」
すると音宮先輩は、そんなことを言い出しました。
「俺の異能力、
1/fゆらぎ……蝋燭の炎の揺れ、小鳥の囀り、川の流れる音など……そういう音に含まれるゆらぎのことですわね。
……なるほど、合点がいきましたわ。そのお陰で
「代償は、しばらく声が出せなくなるくらいで……氷室さんの異能力に比べたら、全然地味な異能力だけど……」
「そ、そんなことありませんわ! ……素敵な異能力だと思います」
「あ、ありがとう……それで、俺のこの異能力だったら……氷室さんの不眠症を解消出来るんじゃないかと思うんだけど……」
「……」
願ってもいない言葉です。というか、元よりそのために、
これでいいではありませんか。この言葉に頷けば、
……それなのに。
──それなのに、どうして。
「……氷室さん?」
何も言わない
眠りたい。普通の人と同じように。そうすれば、
しかし、それだけではないでしょう? もう1人の自分が、
貴方は、音宮先輩に憧れの情を抱きつつも、それと同時に、胸が高鳴ったり、もっと一緒に居たいと、思ったのではなくて?
それこそ、一瞬たりとも離れたくないと、そう願ったでしょう?
「……!!」
そんなこと、と反論しようとしました。しかしそれはあくまで、
「……あの、ええっと」
「……うん」
「……し、しばらく考えても、宜しいでしょうか……?」
「……うん、分かった」
音宮先輩は笑い、頷きます。その優しい表情を見つつ、
──どう、しましょう。彼のことが好きだと……そう、気づいてしまいましたわ。
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