試論:「なろうテンプレ」は進化しているか?~「追放ざまあ」を例にして~
瘴気領域@漫画化してます
試論:「なろうテンプレ」は進化しているか?
■はじめに
「なろうテンプレは進化している」
この言葉を目にしたのは、2023年3月上旬のことだ。春一番がごうごうと吹き、窓ガラスがガタガタと揺れていたことを覚えている。Twitterでその発言を見たときには、ひっくり返って泡を吹きそうになった。
衝撃を受けたのは、この主張が私の直感と反していたからだ。私は万には届かぬまでも、数千のWeb小説を読んできた。その経験が「いや、退化してね?」と囁いてきたのだ。
発端は、いまやインターネットの風物詩となっている「なろうテンプレ批判VSなろうテンプレ批判批判」だ。「何年も飽きもせず、みなさんよう根気がおありどすなあ」と心の中の
だって楽しいじゃん、こういう不毛な論争ってよう!( ゚д゚ )クワッ!!
■議論の
ここでは、「追放ざまあ」と呼ばれる「なろうテンプレ」のみを話題とする。
いわゆる「なろうテンプレ」には多数の種類があり、基本構造だけでなく、パーツとして使用されるあるある展開までを含めると膨大な量に膨れ上がり、論としてまとまりを得るのが困難なためだ。
また、「追放ざまあ」は他のなろうテンプレと比べて「ストーリー展開が強く固定されている」という点も分析対象として都合がよい。
「婚約破棄」などは最低限であれば数千字で消化できるが、「追放ざまあ」はそうはいかない。
詳細は後述する。
■用語の定義
本論に入る前に、用語の定義を行う。
なろう関連の用語は学会や辞書で定義されたものではなく、個々で解釈が異なるケースが多い。
そのため、用語の定義を行わないと、お互いが藁人形を殴っているだけという滑稽な事態になりやすい。それを眺めるのもまた一興なのだが、話題が逸れるのでここではやめておこう。
○【追放ざまあ】とは
以下の構造を踏襲するものとする。
1)主人公が所属していた組織から追放される
2)主人公はなんらかの手段によって成り上がる
3)主人公を追放した組織は没落する(ざまあ)
(1)で挙げた組織は勇者パーティ、Sランク冒険者パーティなどが多いが、国や教会から追放されるケースもある。
(3)では主人公が欠けたことが原因で没落する。荷物持ち追放で例を挙げるなら、
追放PTの女魔法使い「あんた、荷物持ちなんだから《無限収納》にもっと荷物入れなさいよ!」
主人公の代わりに雇われた荷物持ち「はあ!? ぼくが持っているのは《納屋収納》だって言ったじゃないですか! 《無限収納》なんてSSS級のスキル、持ってる人なんて世界中探したっていませんよ!」
まあこんなかんじのやつだ。イメージは伝わっただろう。
また、本論では「主人公が直接手を下す」ことも「ざまあ」に含めることとする。
○【進化】とは
進化という単語にはおおまかに2種の語義があるため、それを整理しておく。
なお、本論では以下に挙げる(A)(B)両方の語義に沿いながら論を進める。
A)「改善」の意
新製品発売時に「当社のエアコンが進化しました!」的に使われる意味である。
平たく言えば「前より性能が上がりました!」や「新機能が付きました!」だ。
普通、進化という語彙を使う場合はこの意味が多いだろう。
B)「適者生存」の意
ダーウィンの『進化論』に則った意味である。
本来の語義はこちらなので、会社の会議で「部長は先ほどから進化、進化とおっしゃいますが、本来の進化とは環境に適応したものが生き残るという意味であり、改善とイコールではないんですよねえ(ニチャア)」とやると賢いふりができるのでおすすめだ。
なお、その後の出世への影響について筆者は関知しない。
■本論:追放ざまあは「進化」してるのか?
そろそろ飽きてきたんだが、せっかくここまで書いたのだから最後までがんばりたい。
○追放ざまあの源流
まず、追放ざまあの歴史について振り返ってみよう。
今日まで続く追放ざまあブームのきっかけとなったのは、『盾の勇者の成り上がり(アネコユサギ/2012年連載開始)』だと筆者は考える。
本稿を読んでいる方でこの作品を知らない方はほとんどいないと思われるが、念のため内容をかいつまんで紹介する。
1)勇者召喚された主人公は「盾の勇者」だった
2)召喚した王家は「盾」が嫌いだったので、罠にはめて追放する
3)主人公、がんばって覚醒する
4)他の3人の勇者の尻拭いで活躍する
5)他の勇者から見直されたり、王家をやっつけたりする(ざまあ)
「こら、ラフタリアちゃんの話はどうした」「フィーロたんぺろぺろ」など、言いたいことの多いファンも多かろうが本論とは無関係なのでこれは割愛する。
○今日の追放ざまあテンプレとは
さて、先に挙げた『盾の勇者』だが、じつはざまあ展開までくっそ長い。超長い。弥勒菩薩が衆生を救っちゃうくらい長い。
ヘイト対象である王家や召喚勇者たちが罰を受けるエピソードがいつまでも発生せず、ざまあ目的で読みはじめた読者はかなりフラストレーションを感じるだろう。
そこを解決しているのが今日の追放ざまあテンプレである。
作品によって差異があることは承知した上で、乱暴にまとめると以下だ。
1)1話目冒頭で「主人公、貴様は追放だ!」
2)2話目で理解のあるヒロインに出会ったり、能力の真の力が開示されたりする
3)3~5話目で最初のざまあが追放側に降りかかる
4)主人公活躍、モテモテ
5)追放側にまたざまあ
※以下、4~5の繰り返し
速い! 超速い! ざまあも何回も楽しめるドン!
『盾の勇者』をタラちゃんの三輪車とするなら、最新の追放ざまあテンプレはコンコルド級である。オーバーチュアである。超音速なのである。
○高速化した追放ざまあは「進化」しているのか?
さて、これは果たして進化と称すべき現象なのだろうか?
3つの観点に沿って整理したい。
1)適者生存の観点
今日のWeb小説では、「初速命」と言われることが多い。
その観点からは、開始1万字足らずで読者にざまあというご褒美を与えられる点が優れている。
まさしく、環境に適応していると言えるだろう。
2)品質向上の観点①――ランキング、ポイント至上主義
小説の善し悪しを定量化する手段はない。
そのため、客観性を求める場合は、ランキングやポイントといった要素に判断を頼ることになる。
その意味では、(1)で述べた通り進化していると云えよう。
だが、商業作品としての評価はどうであろうか?
売上も重要な数字であるが、進化しているはずの追放ざまあテンプレを採用した作品で『盾の勇者』を超えるものは現れたのだろうか?
「あれれー? おっかしいなあ。なろうテンプレは進化してるはずじゃなかったのー?」と心の中の
少なくとも、私の観測範囲にそのような作品は見当たらない。
単純に不勉強の可能性もあるので、「この追放ざまあ作品は『盾の勇者』を超えるよ!」という作品があるのならぜひ教えていただきたい。
なお、個人的に盾の勇者越えをするポテンシャルがあると思うのは『「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい(kiki/2018年連載開始)』なのだが、これもざまあ展開はかなり遅い旧式追放ざまあである。
指をちぎり飛ばして戦うヒロインとか、一体何を食ったらこんなことを思いつくのか……。
3)品質向上の観点②――作品は面白くなったのか?
追放ざまあの
高速追放ざまあというのは物語構造的にかなり無理のあるテンプレなのだ。
読者が気持ちよくざまあを楽しむためには、
「主人公の追放理由が理不尽であること(主人公に非はない)」
「ざまあ対象の追放側が罰を受けるにふさわしいクズであること」
の2点が必須である。
この両方を高速で満たそうとすると、以下のような問題が発生しがちだ。
・明らかに有用なスキルを持つ主人公を追放する、ざまあ対象の知能がチンパンジー級になる
・主人公の有能さに気が付かない異世界人すべてに知能デバフがかかることさえある
・自分の能力の真価をまともに説明していない主人公のコミュ力が絶望的すぎる
・ひどいケースになるとなんだかよくわからない理由で実力を隠してたりする
・そのくせ、2話目で出会うヒロインにはあっさり秘密を話してSUGEEEされる
・追放後に真の能力に覚醒するケースもあるが、ずいぶん主人公に都合のいい展開やなあとチベットスナギツネの顔になってしまう
こういった
ぶっちゃけ私も時流に乗って追放ざまあを書こうとプロットを組んだことはあるのだが、どうやってもまともなお話にならないので短編のコメディを書くにとどまっていたりする。
■雑感
ここ数ヶ月でランキングの様子はだいぶ変化している気がする。
いわゆる「なろうテンプレ」をなぞらない作品が増えてきている印象だ。
数多発明されてきた「なろうテンプレ」も、擦られまくっていい加減飽きられてきた……ということなのだろうか?
ともあれ、これをもって「ほら! なろうテンプレは進化してるじゃん! ランキングが変わってるんだから!」と噛みついてくるのはため息が出るだけなのでご容赦願いたい。
つい数行前に『「なろうテンプレ」をなぞらない作品が増えてきている』と書いたとおり、それは本稿で定義するテンプレではないのだ。
■おわりに
くぅ~~~、疲れた~~~。
異論反論、その他思いつきなど、適当にコメントくだされば―。
とくに募集したいのは、「高速追放ざまあで『盾の勇者』を超える可能性を秘めている作品」です。
素敵な作品の推薦待ってます!
(了)
試論:「なろうテンプレ」は進化しているか?~「追放ざまあ」を例にして~ 瘴気領域@漫画化してます @wantan_tabetai
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