夜のバイトが終わって家に帰路の途中、雨が降り出した。

私は、近くの公園にある東屋で雨宿りすることにした。ちょっと椅子が腐りかけていて、座るとギッと嫌な音を立てた。この音は決して私が重いから鳴った音ではないと言っておこう。


「あー、マジでついてない」


通り雨だと思ったが、本格的にざあざあと降るようになり、今日、何十度目かの溜息をついた。スマホで暇をつぶそうにも、瀕死の状態なので極力使いたくない。


ふと、自販機の明かりが目についた。その光で今日の占いを思い出す。


「缶コーヒーあるかな?」


私は小銭用の財布を持って雨に濡れることも構わず、小走りする。売ってる飲み物は夏なので冷たいものが多い。それでも、一つだけ暖かい缶コーヒーがあった。

小銭を入れて、ボタンを押した。

ガタンと音が鳴り、缶コーヒーが落ちた。そのあとにピピピと音が鳴る。その音は、自販機についているルーレットだ。同じ数字が当たれば、もう1本もらえるというもの。

当たらないだろうなと思いつつ、その数字を見続けた。


7777


「あ、当たった」


軽快な音楽が鳴って、私はもう1本飲み物を選ぶ。今度は、缶コーヒーの横にある缶のサイダーのボタンを押した。

ガタンと音が鳴って、飲み物が下に落ちる。

私は、缶コーヒーと缶サイダーを取る。


「アチチ!」


結果的に言うと両方とも、非常に暑かった。

コーヒーが熱いのは分かるが、何故、サイダーも熱いんだろう?

意味が分からな過ぎて怒る気にもならなかった。


2本を両手に、私は急いで東屋に戻ろうと振り返った。

私は東屋を見てビクッとして、持っていた缶を落としてしまった。缶コーヒーが足に当たり、コロコロと転がった。


東屋に人がいた。私だけだと思っていたから、余計に驚いた。

その人の足元にまで缶コーヒーが転がって、足にトンとぶつかる。


「コレ、貰って良い?」

「あ、どうぞ」

「ありがとう」


その人は、くたびれた様子のサラリーマン。

お礼を言って笑うその顔には隈が出来ていて、うわと思いながら、お疲れ様ですと心の中で伝える。


私は落ちたサイダーを拾って、屋根の下に逃げ込む。既にびしょびしょだから、手遅れだと思うけど、いちおね。


「こんなに雨が降ってると、寒く感じるね」

「はい、まぁ、そうですね」


サラリーマンがそう声を掛けてきたので、同意するような言葉を吐いたが、内心、虫暑苦しいと感じていた。


おもむろに、かしゅっと缶サイダーを開けると、シュワシュワと中身が吹き出し、手にかかった。


「あっつ!!」


缶は転がって、中身が流れていく。


「大丈夫?」

「あー、はい、大丈夫です。私、帰りますね」


何だか、帰らないといけないような気がして、落ちた缶を拾って、自販機の隣のゴミ箱に捨て、鞄を持って走る。


踏切の音が聞こえた。


雨は降り続けているのに、彼が着ているスーツは濡れていない。そんなこと気づきたく無かった。

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苦い思い出 熊のぬい @kumanonui

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