土砂降りの天の川

LeeArgent

土砂降りの天の川

「やっぱり今年も雨かぁ」


 天気予報を見て、織姫は言いました。


 今夜は七月七日、七夕です。

 一年に一回だけ、織姫と彦星が会える日。だけど、みんなも知っている通り、七夕は雨になることが多いですから、織姫と彦星はなかなか会えないのです。


 土砂降りになった天の川は、星屑やほうき星があふれてしまって、とても渡れないんですって。だから、そういう時には、織姫と彦星はビデオ通話でお話するんです。


 でも織姫は、彦星とデートをしたくて仕方なくて。

 織姫は決心しました。


 「仕方ない! 川を渡ろう!」




 織姫は天の川の岸にやってきました。

 天の川は、川幅が広くて向こう岸が見えません。

 おまけに土砂降りですから、あっちこっちにキラキラ星が川からあふれています。


 織姫はごくりと唾を飲み込んで。


 えいや!


 ぴょんと跳んで、川を流れるほうき星に乗りました。


 もう一度えいや!


 ぴょんと跳んで、今度は流れる星雲に乗りました。


 その時です。


 プルルルル!


 織姫のスマートフォンが鳴りました。

 電話に出ると、そこに映っているのは彦星の顔。ビデオ通話をかけてきてくれたのです。


「織姫、今何してるの?」


「あなたに会いに、天の川を渡っているの」


「何だって?!」


 彦星はびっくりしています。


「びっくりした?」


「危ないから、おやめよ。今から迎えに行くからさ。今どこにいるんだい?」


 彦星は呆れ顔。

 その時つるりと、手からスマートフォンが落ちてしまいました。スマートフォンは、ポチャンと音を立てて、天の川の中へ沈んでいきます。


「ああ、そんな!」


 大変です。スマートフォンがなかったら、彦星に連絡ができないじゃありませんか。


 織姫はがっかりしています。

 彦星に場所が伝えられないなら、この天の川を自分の力で渡らなくてはいけません。


 織姫は、も一度ぴょんと跳びます。

 

 キラキラ星達の塊に跳んで、今度は星屑に、今度はほうき星に。

 繰り返しているうちに、雨はどんどん勢いを増して、織姫の靴もぐずぐずに濡れてしまいました。


 織姫が星屑に乗った時。

 雨で濡れていた星屑に足をかけると、つるりと滑ってしまいました。

 ばしゃんと音を立てて、織姫は水の中。


 流れが早い天の川では、織姫は泳ぐことができません。織姫は泣きながら、あっぷあっぷと溺れてしまいます。


「ああ、なんてついてないの!」


 そう思いながら。


「織姫ー!」


 声が聞こえました。

 ばしゃばしゃと、誰かが泳いできます。

 織姫は、誰かに抱き上げられて、岸まで運ばれました。


 彦星が、助けに来てくれたのです。


「大丈夫かい?」


「彦星! 助けてくれたのね!」


 織姫は嬉しくて、彦星をぎゅっとしました。


 そしてその後、二人は彦星の家で、美味しいココアを飲んだそうですよ。



 .*・゚ .゚・*.


『土砂降りの天の川』

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