本日のアンラッキーナンバーは7!

葛鷲つるぎ

第1話

「――今日のあなたは――――!」


 何とはなしにつけたテレビ。普段は聞かない時間帯のニュース番組で、占いの予報が流れていた。


 それを右から左へ、青年はバイト疲れをおして大学の講義に出る準備をする。


 本当は天気予報をチェックしたかったのだが、スマホは充電し忘れて沈黙していた。仕方なく偶々目に入ったリモコンを操作して、テレビをつけた次第である。


「ラッキーセブンかぁ。悪くねぇんじゃん……?」


 窓の外は晴天。

 予報は一日中、晴れ。


「おー、ラッキー」


 ちょうど数字の7を象ったキーホルダーがバスケットの中にあったので、勝手に持ち出した。

 たぶん親か親戚が、適当に買ったお土産だろう。使い道のよく分からないものでも、偶には使える日があるみたいだった。


「いってきまーす」

「ちょっと! テレビ見ないなら消して!」


 母親の叱責が飛んできた。げんなりする。

 青年は靴を脱いでテレビを消した。二度手間になった靴を履き直し、また何か言われる前に無言で家を出る。


「うわっ」


 玄関のドアを開けるや、足元に虫の死骸がひっくり返っていた。危うく踏みかけて声を出す。


「んだよ……」


 青年はまたげんなりしながら玄関に戻り、箒で掃いた。

 今度こそ家を出て、自転車に乗る。


 それから似たようなことが何回も起きた。




「なん、なん!?」


 そして一日の終わり、青年は空を仰いだ。

 通り雨に遭い、悪態をつく。


「大丈夫か、お前」


 青年の不運っぷりを隣で見ていた友人は、宥めるように尋ねた。

 一緒に雨に降られたので濡れているが、泥濘に足を取られたわけでもなく、本日の友人に比べたらどうってことはないかった。


「ラッキーセブンとか嘘じゃん。やっぱ占いとか当たんねーな!」


 文句を吐き出しても苛立ちが治まらないらしく、青年は力いっぱいリュックサックの水気を飛ばした。

 果たして、リュックサックのポケットに納まっていた500mlのペットボトルが、ちょっとした弾丸のように射出された。


「あー!」

「あーあ」


 横目で予感がしていた友人は、半笑いになって目を追った。


「どんまい」

「マジで、ねぇ」


 深くため息をつく青年の傍ら、友人はいよいよ、青年が朝に見たというニュース番組の占いが気になって調べた。

 そして思わず笑い出す。


「おい、おーい」


 スマートフォンの画面を見て笑っている友人に、青年は怪訝な顔をして近づいた。


「なに、どうしたの」

「朝の占いさあ、それラッキーナンバーじゃなくて、アンラッキーナンバーらしいぜ」

「はあ?!」


 青年は差し出された画面を凝視した。


『今日のアンラッキーナンバーは7! 小さな不幸に本日もご注意!』


「マジじゃん! ふざけんなよ紛らわしい!」

「いま気づいて良かったじゃん」


 言いながら、友人は遠慮なく爆笑した。


「あー! もー!」


 青年の方は堪ったものではないので、頭を掻きむしる。


「滅びろ! そんなコーナー!」

「あ、今日で終わりだったらしいぜ」

「遅ぇんだよ」


 やはり不評だったのか。

 青年はそれみたことかと鼻を鳴らす。


 そんな時だった。


「ご、ごめんない〜! それ拾って〜!」


 絵に描いたような若い女の悲鳴が大学生二人の耳に届いた。

 見れば野球ボールが転がってくる。


 そういえば近くに野球部の練習場があったな、と二人は思った。


 先ほどの雨に降られたまま、太陽光を跳ね返す黒髪の姿が、青年の目にくっきりと映った。




 スマートフォンの画面で、表示されたままの文字列がピカピカ悪趣味に流れていく。


 それは青年が聞き流し、友人が見逃していた占い師の台詞。


『本日のあなたは出会い運が最悪! 不幸を小出しにして、運気を調整しましょう!』


 アンラッキー7。

 それは本当に不幸だったのか。

 今は誰も知らない。

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本日のアンラッキーナンバーは7! 葛鷲つるぎ @aves_kudzu

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