垢BANからの復活
丸子稔
第1話 なんで俺が……
昨年の7月7日、俺は利用していた小説投稿サイト『不気味なトリ』から垢バンされるという悲劇に見舞われた。
事前に来た通知には、不正の疑いがあると書かれていたが、俺自身には全く身に覚えがなく、まさに寝耳に水だった。
俺はすぐさまその旨をサイトに伝えたが、まったく取り合ってもらえず、結局通知から一週間後に突然アカウントが消えてしまった。
──マジかよ。せっかく今日は七夕だっていうのに……
ちょうど、投稿していた小説にコメントをもらえるようになっていた事もあって、口では言い表せないくらいショックは大きかった。
一瞬、近所の神社に行って、『もう一度復活させてください』と短冊に書いて笹の葉に吊るそうかという考えが頭をよぎったが、その願い事が叶うことを本気で信じられる程、俺は子供ではなかった。
──こうなったら仕方ない。他のサイトに移ろう。
中途半端なまま終わりたくなかった俺は、他の小説投稿サイトを検索したが、どれも今一つというか、決め手になるようなものがなかったため結局選ぶことができず、小説を書くのもやめてしまった。
小説を書くことが唯一の趣味だった俺は、その後何もする気が起きず、魂の抜けたような生活を送っていた。
そんな生活が一年程続いたある日、暇つぶしに『不気味なトリ』に掲載している作品に目を通していると、あるユーザーが俺と同じように垢バンされた後、違うアカウントを使って復帰したと、自身のエッセイに書いていた。
──マジかよ! そんなことができるのか?
俺は居ても立っても居られず、早速、前に使っていたものとは別のアカウントで登録を試みると、それは拍子抜けするくらい、あっさりと承認された。
奇しくも、その日は去年垢バンされた時と同じ7月7日だった。
復活できたことは、もちろん嬉しかったのだが、それとともに、この一年は何だったんだという怒りが込み上げ、俺はなんとも複雑な気持ちだった。
──まあ、せっかく復活できたわけだし、昔のことは忘れて、また一から始めよう。
俺はスマホのアラームを7時に設定し、前に書いていた小説のダイジェスト版と、その続きを書く作業に取り掛かった。
──去年の七夕はアンラッキー7だったが、今年は7を一つ増やして、それを払拭しよう。なんたってスリーセブンは縁起がいいからな。
一年のブランクのせいで、かなり時間が掛かったが、俺はなんとか書き上げることができた。
──さて、前にコメントをくれていた人たちは、果たしてこの作品を読んでくれるのだろうか。また、新たな読者は増えるのだろうか。その人たちはどんな評価をし、どんなコメントをくれるのだろう。
『ピロリロ! ピロリロ!』
急かすようにスマホが鳴った。
俺はどきどきわくわくしながら公開ボタンを押した。
了
垢BANからの復活 丸子稔 @kyuukomu
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