第207話

「——あゆらっ……!!」


 叫ぶように名を呼びながら身体を反転させた志鬼が、あゆらの腰を、顎を掴み、強く引き寄せ唇を奪う。

 力任せに身体を進めれば、あゆらの背中が側の壁にぶつかり、そのまま貪るような口づけを繰り返す。

 あゆらは志鬼の激しさに応えようと、必死に爪先立ちをし、背中に手を回して、舌を絡めた。

 恐怖などない。この大きな身体と強い力で、好きにされたいと思った。


 女性らしい華奢で柔らかな身体と、甘い香り。

 もっとあゆらを感じたいと、志鬼が濡れた衣服の上から、その膨らみを鷲掴みにした。


「んっ……」


 途端、志鬼は宇宙を見た。

 宇宙を見た……が、それを突き破るべく、もう一人の理性という名の自分がものすごい勢いでやって来た。


「——ダアアアァ!!」


 声ならぬ声を上げ、ガヅン、と鈍い音を響かせた志鬼は、自ら壁に頭を打ちつけていた。

 

「……あかん、あかんあかんアカン! 今はまだあかんやろ! ヤりたいけど、正直言えば死ぬほど抱き潰したいけど今はあかんン!!」

「……何よ、私のこと好きなんでしょう?」


 懸命に自分に言い聞かせる志鬼に、あゆらは少し拗ねたような表情でそう問いかけた。

 すると志鬼は静かにあゆらに向き直った。

 その顔は、驚くほど真剣そのものだった。



「……本気で好きやから我慢してるねん。俺はまだガキやから、何かあっても責任が取れん」



 あゆらは大きく開いた目で、背の高い恋人を見つめていた。

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