　その頃、あゆらはいつものクラスで授業を受けていた。

　普段は鞄の中に入れてあるスマートフォンは、今はスカートのポケットの中にある。志鬼からの連絡にすぐ気づけるようにするためだ。

　あゆらと志鬼は毎朝、正門から少し離れた木の下で待ち合わせをして登校している。

　そこから帰宅するまで二人はずっと一緒で、離れているのは更衣室を利用しているかお手洗いの時くらいだ。

　地元ではサボり上等だった志鬼は遅刻など日常茶飯事だったが、あゆらを守るという使命……もとい、一秒でも長くあゆらの側にいたいという気持ちで、待ち合わせに遅れることはまったくなかった。

　そんな志鬼が初めて無断で学校に来なかったため、あゆらはひどく気を揉み、何度も電話をかけたりメッセージを送ったりした。

　もしや深夜の捜査で何かあったのか、恐ろしい事件に巻き込まれて取り返しのつかないことになっているのでは、と。志鬼の身を案じて気が気ではなかった。

　しかし、一時間目の授業が終わる予鈴が鳴った頃、あゆらのスマートフォンが振動した。急ぎ通話アプリの画面を開くと、志鬼から一件のメッセージが来ていた。

『今電車やからもうすぐ着きます』

　語尾につけられた志鬼らしい謝罪の顔文字に、あゆらは和むとともに、心底胸を撫で下ろした。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい