第161話

「叩けば埃が出そうな相手ではあるな。……だが、わざわざ俺が調べなくても、それはとっくに真実を知ってる顔だよなあ?」


 志鬼を監視していた騰は、当然彼が深夜に動いていることを知っていた。故に今の発言がそれに関係しているのだろうと予測できた。

 しかしあえてそこには触れなかった。

 助けを求めているわけではないとわかっていたからだ。


「よくガキだけでそこまで辿り着けたもんだ。答えももう出たんだろう? なら迷うなよ、らしくねえ」

「……俺のことじゃないんや」

「そこまで悩むならよほど大事な人間なんだろう。なら尚更、お前が選んだ答えをくれてやれよ。腹括はらくくれや、俯いてたら男がすたるぜ」


 ぶっきらぼうな後押しに、志鬼は笑ったのを隠すように顔を逸らすと、騰を横切った。


「今時世襲制なんてナンセンスだ、俺がお前の親父にとって代わってやるからよ、安心して我が道を行きやがれ」


 背後からかかった言葉に、志鬼は右手をひらひらと振りその場を後にした。


「……あ、虎徹の奴に住所教えちまったの言い忘れた。まあいいか。……それにしてもあいつ、つらが赤く見えたが、気のせいか?」


 久しぶりの再会につい話し込み、いろいろ言うことや突っ込むところが抜けてしまった騰だったが、遠くなる成長した背中を見送ると、幾分か安心したように車に戻った。

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