第160話

「親と縁切りして援助も頼まずガキが一人前に食っていくのは途方もねえ話だ。しかもお前の場合は反社会的勢力の象徴である組長の息子だ、まず表社会の雇われ仕事はできねえ。……俺の見立てじゃお前の力量からすると血反吐ちへどを吐く努力をして最短五年ってところか。それを過保護に育てられた温室の花が待つもんかねえ、見返りの薄い話じゃねえか」

「お前に言われんでもそんなことはわかってる」

「……組を継ぐのが一番楽だっていうのによ、お前は自分の血にあらがいすぎだ。三年前あれだけクタクタになったっつうのに、まだやめねえ」

「死んでもやってるわ、それが俺やからな」


 運命に流されるより、あくまで宿命と戦う姿勢の志鬼は、とてつもなくしんどい、愛すべき大バカ野郎だった。

 騰は話に夢中になり短くなったタバコを指で弾き捨てた。三年前のあの日と同じ、困り果てた親しみを込めた笑顔で。


「まあ、やばくなりゃあまた俺が殴りつけてやるよ」

「もう今は俺の方が背も高いしおっさんなんかに負けんわ」

「なんだとこら、まだ二十三だっつうの」


 場の空気が少し和み、騰が新しいタバコに火をつけようとした時、タイミングを窺っていた志鬼が口を開いた。


「……騰、岸本幸蔵って知ってるか?」

「あ? あの政治家のか? 知らねえ人間はいねえだろうよ」

「表やなく、裏の顔や」


 そう言ったきり、思い詰めたように黙る志鬼を見た騰は、一瞬キョトンとした後、薄く笑った。

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