第141話

「もちろん帝くんも、ご納得いただけますことね?」

「……いや、これは一本取られたよ。もちろんきみの言う通りにするさ、女性の気持ちを優先しなくちゃね」


 道化を演じる清志郎に会場は穏やかな雰囲気に包まれたが、あゆらは「女性の気持ちを優先する」など、よくも白々と言えるこの外道め、と内心罵倒していた。


「僕は待つよ、十八になるまでね」

「……帝くんの誕生日まで、何事もなければよくてね?」

「……ないさ。きみとの輝かしい未来は、もうすぐそこだよ」


 あゆらの意味深な言葉に、清志郎は意図を理解した上でにこやかに返して見せた。

 今ここでジタバタしても仕方がない。清志郎を早く牢獄に入れさえすれば、この結婚話は白紙に戻るのだから。

 冷静に自身を取り戻したあゆらは、ふう、と一つ深呼吸をすると、今度は真剣な面持ちで志鬼を見つめた。


「勘違いのないよう、皆様にお伝えしておきたいことがございます。そちらにいらっしゃる野間口志鬼くんですが」


 これには志鬼が面食らった。

 まさか自分を援護するような発言をして、あゆらに迷惑をかけてしまうのではないかと焦ったのである。

 しかし、志鬼の杞憂はこの後、瞬く間に美しい宝石のように煌めくものへと変わる。


「確かに彼のおうちは反社会的勢力として名高い野間口組です。ですが彼自身は何も悪いことをしておりません。それどころか、私を暴漢から救ってくださったのです。私が今も清くいられるのは、彼のおかげですわ」

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