第142話
それを聞いた客たちは、先ほどとは少し違った視線を志鬼に向けた。
「彼は格闘技を一通り会得しておりまして、とっても強いんですのよ。運動神経も抜群です。お勉強は苦手ですが空気を読むのがうまく、人の感情に敏感です。ちょっぴりお下品なところもありますが、まあご愛嬌の範囲ですわ。度を越す時は私が……『めっ!』と言って
「——イッ!?」
突然の愛ある公開お叱りに、思わず顔を赤くし慌てふためく志鬼。
そんな志鬼の周りにいた客たちは「さすがあゆらさん」などと少し微笑ましそうに口にした。
その後あゆらは目に力を込めると、和やかな口調は一転、訴えるものへと変化する。
「どうか家柄や見た目だけではなく、中身で判断していただきたいのです。かく言う私も彼に出会うまでは固定概念に囚われた愚かな一人でありましたが、飾り立てた外見や上辺だけの優しさに騙されるほど滑稽なことはございません。こちらにいらっしゃる聡明な方々には口頭で十分に伝わると信じております」
あゆらのその迷いなき声は会場全体に響き渡り、客たちの胸を打った。
志鬼はあゆらから目を離すことができず、駆り立てられる思いを全身で感じていた。
やがてパチ、パチ、と、まばらだった拍手が重なり、大きなものへと変わる。
「すごいわ、まるで演説を聞いているようでした」
「これは日本初の女性総理大臣も夢ではないかもしれませんな」
会場内の明るい雰囲気に安心したあゆらは、ホッと胸を撫で下ろした。
何より志鬼の名誉を回復できた気がして、それが一番嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます