第120話

 あゆらが不機嫌に見えたのは、まったく別の理由だったが、志鬼は自身の汚い部分を見て幻滅したせいだとすっかり勘違いしていたのだ。


「頭ではわかってても、実際目にするのとは違うもんな」

「待ってよ、違」

「大丈夫やで、あゆらが俺を嫌になっても、一回やり始めたこと途中で放棄したりせんから、ちゃんとこの件は最後まで」

「——ちょっと! 違うって言ってるでしょう!? 話を聞きなさいよおバカ志鬼ーーっ!!」


 一向に口を挟ませようとしない志鬼に、ついにあゆらが目一杯声を張り上げた。

 これにはさすがの志鬼も面食らった様子で目を丸くし、あゆらを見据えた。


「違うのよ! 確かに私、不機嫌そうに見えたかもしれないけれど、それは何も、志鬼が嫌になったんじゃなくて……自分が、嫌だったの」

「……へ?」

「だって粋がってついて来たのに、なんの役にも立たないじゃない。それどころか足を引っ張るばかりで、情けなくて、恥ずかしかったのよ……そ、それと」

「……それと?」


 あゆらは目を泳がせ、一度ギュッと唇を噛み意を決してから言った。


「……志鬼が、ああいう、いかがわしいお店に慣れているのか、気になったのと……女の子と仲良くしている風、なのも、嫌……だっタ……」


 緊張のせいで最後の方はほとんど消え入るように、若干カタコトで言うあゆらだった。

 それを見た志鬼は、ポカンと大きな口を開けていた。

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