第118話
夜闇に光る猛獣のような
お手洗いに残された志鬼は、萎縮しているあゆらを見て小さなため息をついた。
「気になって来てみたら……だーから、こうなるって言うたやろ」
あゆらは志鬼の言う通りだと思い、何も反論することができなかった。
——自分は一体、なんのためにここに来たのか?
役に立つどころか、志鬼の足手纏いになっただけではないか、と。
「これから汚れ仕事は俺が一人でやるから」
あゆらは声を出せずに力なく頷いた。
「……他の売春クラブの場所は大体さっきの女に聞いたから、そこで帝に売られた子がおるか引き続き調べるわ。……もうここには用ないし、帰るで」
志鬼はあゆらにそう言うと、踵を返しさっさとドアを開け出て行ってしまう。
そんな志鬼に違和感を覚えたあゆらは、急いで後を追いかけた。
志鬼がミヤに連絡をし、地下通路の扉の鍵を開けてもらうと話もそこそこに店を後にする。
——やっぱり、何かが変だ。とあゆらは思う。
いつも身長差からできる歩幅を合わせてくれる志鬼が、今はまったくそうしない。
長い足が躊躇なく前へ前へ進んで行き、二人の間にはどんどん距離ができてしまう。
「志鬼っ……待ってよ!」
店への階段を上りきって、辺りに人がいない路地裏へ戻ると、あゆらは我慢していた声を発した。
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