第117話
「未発達な女の子なら、胸もあまりないし男の子と似てるところがあるだろう? だからここに通っているんだけど、きみのような子に会えるとは今夜はとてもついている。帽子とサングラスで隠しているけど、見えている部分だけで上玉というのはわかる。こんなところにいるくらいだから、お金に困っているんだろう? 一回で十……いや、二十万出そう」
あゆらの常識では考えられない発言が次々と並べられ、混乱のあまり思考が停止する。
こんな時の対処法は、教科書にも載っていなければ授業でも出てこない。
「悪い話じゃないだろう、私は怪しい者じゃない、弁護士という社会的地位があるからきみのことを口外したりしないし、安心していい関係を築けるはずだ」
欲に染まった目で、男は茫然とするあゆらの手首を掴み上げた。
咄嗟に悲鳴を上げようとしたあゆらだったが、そうすれば自分が女であることがバレてしまう。
——怖い……志鬼っ……!
どうすることもできず、恐怖に青ざめながら志鬼の名を心で呼んだ時だった。
お手洗いのドアが開き、大きな影が男の肩を叩いた。
「悪いなおっさん、そいつ俺の連れやねん、離したってくれる」
志鬼は最初はあくまで穏やかに、男に声をかけた。
男は体格差のある志鬼に一瞬怯んだものの、あきらめきれず食い下がる。
「な、なんだ貴様は、関係ないだ」
「もう一回だけ言うで…………離せ」
志鬼の細い目がナイフのように鋭く尖がり、空気が一転する。
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