第114話
「あ、でも他の売春クラブで働かされてるかもね。ここ以外にもいくつかあるし。ヘルプで行かされたことあるから何店か知ってるの」
「ほう、さすが物知りやな」
志鬼がその店の名前を聞き出そうとした時、アリスの目が妖しく光った。
「……お兄さん、話聞くの上手だね、あたし好きになっちゃいそう」
聞き捨てならない発言に、俯き加減を保っていたあゆらは思わず顔を上げアリスを見た。
「そらどうも」
「やっぱり男は包容力がなくちゃダメだよね、いくら外見着飾っても中身が伴ってなくちゃ意味ないよ。それにあたし、美形って苦手なんだよね、自分で自分のことかっこいいって思っちゃうイタイところがさあ。かと言ってブサイクは嫌だし……お兄さんくらいがちょうどいいよ、涼しい顔してるし、スタイルもいいしさあ。ねえ、あたしと付き合ってくれるならなんでも教えたげるよ?」
これにはあゆらはギョッとした。
まさか志鬼が、情報のために身売りのようなことをしてしまわないだろうか、と。
本心では「やめて!」と叫んでしまいたいあゆらだったが、今はそれが許される状況ではなかった。
「悪いけど……」
不安な中、志鬼の返事を待つしかできなかったあゆらの手が、温かくなる。
——志鬼に手を、握られていた。
「俺、好きな子おるから。付き合うのは無理」
テーブルの下、誰にも見えないよう密やかに、あゆらが膝に揃えた両手を、志鬼の右手が優しく包み込んでいた。
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