第113話

 それを聞いた時、あゆらは奥歯を噛みしめた。最後に話された少女の特徴が、間違いなく美鈴を指していたからだ。

 美鈴はかばった友人の身代わりに売られたのだ。美鈴が拒否すれば、その友人に再び被害が及んだだろう。

 一度闇の世界に踏み込んでしまえば、友人が引っ越し、いなくなったからといってそう安易と足を洗うことは許されない。こんなことは、親にも誰にも、話せないのだから。

 

「あたしがここに来たのが二年くらい前だから、それ以前のことは知らないけどね。……そうそう、今思い出した、確かそいつ超やばかったんだよね」

「やばい……何がや?」

「売られた子と何回かしゃべったんだよね、もうここにはいないけどさ。その時聞いたの、そいつに一度も手出されたことないって。裸の写真撮ってるのにだよ? おかしくない? 普通ヤるよね、そこまでしてるのにさあ。でもまったく興奮してる様子もなかったって。ホモか不能かよ。別方向にやばいよね」


 これには二人も驚いた。

 確かにアリスが言ったように、裸にして売り飛ばすくらいなら、売る男の性のけ口になってからだと考えていたからだ。

 理由はわからないが、どうやら清志郎は女を犯したことがないらしい。


「なんか特殊な性癖でもあるのかな、あれは普通じゃなかったよ。今まで色んなクソ男見て来たけど、ああいう静かなのが一番怖いよ、笑いながら人殺しそうなタイプ」


 アリスはそう言ってタバコをふかしながらゲラゲラ笑った。

 なかなかの修羅場を経験してきたのだろう、その目利きはあながち間違えてはいなかった。


「その、こいつに売られた女の子が今どこにおるか知ってる?」

「知らなーい。基本商品同士の連絡先交換とか禁止されてるし、興味もないし」


 自分たちのことを当然のように“商品”と呼んでしまうアリスに、あゆらの胸が痛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る