第112話

 そこからしばらくは、アリスの客への愚痴や、ここで働くに至った経緯など、不幸自慢のような話が続いた。

 志鬼は面倒だと思いつつも、相槌を打ちながらたまに労る言葉をかけたりして、酒を勧めた。

 すっかり気をよくしたアリスの警戒心が薄れたところで、志鬼はすかさずミヤにしたように、清志郎の写真を見せた。


「アリスちゃん、こいつ知ってる?」


 チェリー色のカクテルを口にしながら、アリスは写真に目を向けると、すぐに「知ってるよ」と答えた。

 

「って言っても一、ニ回くらいかな、見たことあるの。売る側の人だよ。あたしと同い年くらいの女の子、何人か連れて来てたの見たし。まあ、でもすぐに帰っちゃうから、話したこともないんだけどね。みんな知られたくないんだろうからさ、こんなとこと関わってること」


 酔っ払っているせいか、アリスは次から次へと聞いてもいないのに知っていることを話し始めた。


「ちょっとしか見てないけどね、ずいぶん毛色が違うから覚えてたの。こういうすさんだ場所に全然似合わなくってさあ、合成写真みたい、浮きまくってるんだもん。服装はカジュアルにしてさ、フードかぶってたけど、妙に綺麗なオーラがあって、どこかいいとこのボンボンだったりして、なんて考えたりしたもん」

「へえ、よう見てるな。どんな女の子連れて来たかも覚えてるん?」

「うーんと……茶髪のショートの子と、モデルみたいにスラッとした子もいたかな、最後に見た時は、黒髪に三つ編みの……陰キャっぽいメガネの子」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る