第115話

「はあ、やっぱりかあ。イイ男にはみんな相手がいるんだもん。恋人が無理ならセフレでもいいよ、お兄さんならどんなエグいプレイでも付き合ったげる」

「はは、そら魅力的やな、でもあいにくそういうことは好きな子としたい男やから、悪いな」


 ——志鬼の手が熱い。

 いや、熱いのは自分の方だろうか?

 そんな正常な判断すらできないほど、あゆらの体温調節は大変なことになっていた。


「そんな男もいるんだねえ、ムカつくけど、いい夢見た気分。いいよ、知ってること全部話したげる」

「おお、助かるわ」

「好きな相手ってどんな子?」

「そうやなあ……」


 志鬼の手に力がこもる。

 まるで俺の思いを聞けとばかりに。


「ツヤツヤでサラサラの長い黒髪に、大きい目がキラキラしてて、唇プルプルで、色白くて華奢で、品のある美人で気強いのにちょっと抜けてるとこがまた可愛くて、泣きぼくろがめっちゃセクシー……」


 ——ガタンッ!

 志鬼がそこまで言ったところで、椅子が倒れる音がした。

 

 志鬼のあまりのアピールに、照れが臨界点を突破したあゆらが勢い余って立ち上がったせいだ。

 無言で固まっているあゆらは、しばし部屋中の視線を集めた。


「……お、お手洗い、に」

「……何、ただのトイレ? ビックリしたじゃん。男性用はあっちだよ」


 一呼吸置いてようやく漏らした低い声に、アリスは怪訝な顔をしながらお手洗いの場所を指差して教えた。

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