第105話

「知ってるよ、うちに女の子卸しに来てた奴だ。って言っても見たことがある程度でほとんど話したことはないよ」

 

 ミヤの返事に、あゆらと志鬼の目が一瞬光る。ぼんやりとしていた真実の輪郭が、どんどん鮮明さを増してゆく。


「こいつ、俺が売ろうと思ってた女の子横取りしたから探してるねん」

「へえ、そりゃ大変だ。でも申し訳ないけど、そいつの居場所なんて知らないよ。売り手や女の子は本名も連絡先も知らないからね。どこの誰かもわからないし、詮索する必要もない」

「そんなんで女の子に逃げられたりしないん?」

「たまあに引っ越したのか来なくなる子はいるけどね。でもそんなケースは稀だよ。うちで働いてる子は大抵弱みを握られてるか、売り手の男にゾッコンだから、逃げれば自分を苦しめることになるからね」

「なるほど……」

「売る男も売られる女も、事を大きくしたくないから身元は隠してるんだよ。売買の場所を提供してるこちらも、深く関わらない方が警察にもバレないし。……だからお前たちがどうやって西北さんと知り合ったか、とか、表での顔とかも聞かないからさ」


 ミヤはそう言って志鬼に笑いかけた。

 志鬼もそれに応じるように薄い笑みを返すと、清志郎の写真をパーカーのポケットに戻した。

 あゆらはとても笑える状態ではなかった。

 弱みにつけ込まれ、身体を売るしかなかった美鈴を含めた女の子たちのことを考えると、黙っているだけで精一杯だった。

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