第106話

「そうかあ〜、ほなそいつが連れて来た女の子がどこにおるかもわからんよなあ」

「そうだね。そもそも売春クラブはうちだけじゃないから。ここで受付しても他の店に流れてる場合もあるし。俺も雇われてる立場だから、ぶっちゃけそこまで詳しいことは知らないんだよ」

「ほな元締めが誰かも知らんの?」

「全然。顔も名前も知らないね。面倒ごとには巻き込まれたくないし」

「楽して金だけ欲しいもんなあ」

「ほんとそれ。やっぱりノマ、わかってるな」


 志鬼の対応に気をよくしたのか、ミヤは高い笑い声を漏らした。


「まあ、客の情報は全部ご丁寧に保管してあるけどね。一定の収入がないと会員になれないからさ」

「なるほど、代金踏み倒されたらたまらんもんな」

「そうそう……あ、そろそろ着くよ」


 内容の濃い会話が終わった頃、最後の階段の先に扉サイズの出入り口が現れた。ドアはつけられておらず、そのままコンクリートの打ちっぱなしの部屋に入れるようになっていた。

 いや、これは部屋と呼んでよいのだろうか?

 そう思えるほど、ねずみ色の冷えた硬い素材に囲まれた空間は、異様に静まり返り不気味さを醸し出している。

 ミヤと志鬼、横に並んだ二人の間にできる隙間から見えた光景に、あゆらは自身の目を疑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る