　志鬼とミヤのやり取りを、あゆらは驚きながら見聞きしていた。

　本当の志鬼を知らなければ、誰でも“あちら側”の人間だと騙されてしまう自然で大胆な演技。先を見通す頭の回転の速さ。

　どれも自分にはできないことばかりで、あゆらは憧れのような、焦りのような、形容し難い感情を胸に秘め志鬼の後をついて歩いた。

　ミヤは事務所を出た裏手にある銅色の扉の前に立つと、ズボンのポケットから取り出した複雑な形状の鍵を差し込んだ。大事な鍵なのだろう、ベルト通しに二重にされたキーチェーンに繋がれている。

　ミヤが扉を押し開くと、下に向かって続いているやや幅広い階段が現れた。どうやらさらに地下があるらしい。

　ミヤは扉を施錠すると志鬼と横並びになり階段を下り始めたので、あゆらは慣れないサングラスと薄暗い段差につまずかないよう気をつけながら進んだ。

　道のりは長く、屈折していたため、到着する場所は上から見て取れなかった。

　志鬼はここでパーカーのポケットから一枚の写真を取り出すと、隣りを歩くミヤに提示した。

「なあ、ミヤさん、こいつ知ってる？」

「ん〜？」

　ミヤは気のない返事をしながらそれに視線を移すと、数秒考えたのち、ああ、と小さな声を漏らした。

　そこに写っているのは、清志郎である。

　あゆらが持っていた学校の集合写真で、彼だけ拡大して印刷したものだった。

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