第103話

 志鬼の言葉を聞いたミヤは、納得したように頷いた。

 

「だろうね、で、下見しに来た感じ? 西北さんとは一緒に来なかったんだ?」

「それが西北さんには内緒にしといてほしいねん。おいしいバイトがあるって教えてくれたのはありがたいけど、あのおっさん好きやないから、黙って稼ぎたいんや」


 志鬼がここに来たことが基樹に知れたところでどうなるわけでもない。仲間内に志鬼のことを告げ口することは、自分が情報を漏らした証拠にもなるからだ。

 とはいえ、志鬼は念には念を、と思い、とりあえずミヤに口止めをしておいた。

 するとミヤは、ああなるほど、とこれにも納得した様子だった。


「あの人に限らずいけすかない客は多いからね。金持ち向けの売春クラブだから仕方ないけど、俺もけっこうあるんだよね、上から目線でムカつく時」


 ミヤのこの言葉が決定打になった。

 志鬼の予想通り、やはりこのクラブの裏で、売春が行われているのだ。


「お互い苦労するなあ、ただのエロ親父のくせして」

「ほんとそれ、ノマ話わかるね、気合いそう。こっちにどうぞ」


 志鬼の壁を感じさせない距離の詰め方に、すっかり警戒心を緩めたミヤは機嫌よさそうに次の行動を促した。


 ――気合ってたまるか、クズ。


 あくまで顔はにこやかに、心の中でそんなことを思っていることは微塵も見せない志鬼である。

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