第102話

 ピンク色に刈り上げた頭に、左耳のピアス、派手な柄のTシャツにダメージ仕様のジーンズ。年齢は二十代前半といったところか。

 志鬼は男の見た目や役回りを考慮し、どこかの半グレの輩かと判断した。

 とはいえ、志鬼は荒れている時期に関西の半グレチームを壊滅状態に追い込んだことがあるため、恐怖心など一切ない。

 ——自分だけならば。

 今は一人ではなく、あゆらがいる。

 守るべきか弱き対象がいることを肝に銘じ、志鬼は常に背後に気を配りながら神経を尖らせ行動していた。


「初めまして、俺がここの店仕切ってる……みんなミヤって呼んでる。本当の名前言う必要はないから安心して。呼ぶ時に不自由だからニックネーム的なやつで」

「気遣ってもらって助かるわ、俺はノマ、で、こいつはキシ、でええから」

「オーケー……なんか、お連れさんずいぶん暗そうだけど大丈夫?」


 ミヤに背後を覗かれ、志鬼はあゆらの肩をバンバン叩いて見せた。


「ああ、こいつこういう場所初めてやから気にせんといて、空気やと思ってくれたらええわ」

「ふうん、まあいいけど。西北さんの紹介ってことはお客さん? ……ってわけではなさそうだよねえ、ノマ若そうだし、ぶっちゃけまだ未成年だろ?」

「そうやねん、だから金払うより欲しい方。……若くて可愛い女の子、おろしたいんやけど、どうかなあ思て」


 志鬼が買う側の客を演じるには年齢的にも無理があったため、売る側になりきることに決めたのである。そうまでしなければ、懐に潜り込むことはできない。

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