第101話

 その中の一人が志鬼に気づき「いらっしゃいませ」と口にする。

 酒を飲み、踊りながら談笑する人々がみんな大人に見えたあゆらは、自分たちが未成年とバレて追い返されたらどうしよう、とハラハラしていた。

 しかし、あゆらがそんなことを考えているうちに、志鬼は挨拶をしたバーテンダーの目の前に来ていた。


「いきなりで悪いんやけど、店長おる?」

「……なんのご用で?」

西北にしきた基樹もときの知り合いって言うてくれたらわかると思うわ」

「……かしこまりました。少々お待ちを」


 志鬼は例の監察医の名前を出した。末端はともかく、ここが本当に売春クラブであるならば店長が太客である彼の名を知らないはずがないと思ったからである。

 藪から棒に言われたバーテンダーは一瞬怪訝な顔をしたが、とりあえず店長に連絡するため席を外した。


 ほどなくして戻って来たバーテンダーは「こちらにどうぞ」と言い、志鬼たちを裏にある硝子張りの部屋へと案内した。


「店長、先ほど連絡したお客様です」

「俺ああ、お前はもう戻っていいぞ」

「はい、では失礼します」


 バーテンダーは志鬼に軽く会釈をすると、振り返りドアを閉めて去って行った。


 この部屋は防音加工でもしているのだろうか? 店内の騒がしい音や笑い声が嘘のように聞こえなかった。

 

 一人用の事務所のようになった部屋には、壁際にファイルが並んだ棚と中央にデスクが置かれており、そこの椅子に店長らしき男が座っていた。

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