第78話

 志鬼の191センチの身長に対し16センチ低い清志郎は体格的にハンデがある。

 しかし、幼い頃からテニスが得意で以前テニス部の主将を負かしたほどの経験者である清志郎に対し、志鬼はほぼテニスをしたことがなかった。

 リーチの差と経験の差を考慮すれば二人の実力は五分五分と思われた。

 

 生徒たちは自分の試合を放棄し、体育教師ですら制限時間終了のホイッスルを吹くのを忘れ志鬼と清志郎に見入っていた。

 僅かな油断も許されない息を呑む戦い。

 やがて、ほんの少し浮いたボールをラケットの中央で捕らえた志鬼が振りきり、清志郎がそれを懸命に追いかけた時——。


 キーンコーンカーンコーン


 二人の試合を強制終了させるチャイムの音が鳴り響いた。


 ボールは清志郎の斜め後ろに位置する白いラインの上に落ちた……かに見えたが、それが内側だったか外側だったか、肉眼で判断するのは困難だった。

 その瞬間、体育教師がホイッスルを鳴らし、結果は引き分けということになった。

 我に返った生徒たちの多くは、熱戦を繰り広げた二人に思わず拍手を送った。

 あゆらはじっと立ったまま余韻に浸っていた。もちろん清志郎ではなく、志鬼に見惚れていたからだ。


 試合が終わった後どちらともなくネットに集まった志鬼と清志郎は互いに汗ぐっしょりで肩で息をしていた。

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