第77話

 そんな志鬼が特に輝いて見えるのは、体育の授業だった。

 球技や陸上、マット運動など、すべてが得意で、各部活のエースよりもはるかに上手いのではないかと思われた。

 あゆらは体育の授業中、よく志鬼を眺めるようになった。そしてそれは志鬼も同じで、タイミングよく目が合うと脇目も振らず名前を呼んだり手を振ってきたりするものだから、あゆらにはたまらなかった。

 そして今日も——。  


「野間口くん、すごいですわね」

「帝くんと同じくらい……いいえ、少し押しているのではなくて?」


 小腹が空き始める三時間目の終盤、太陽の光眩しい高校の敷地内にあるテニスコートで女子生徒が呟いた。

 今日の体育はテニス。

 広々としたコートがいくつも横に並び、男子と女子で左右に分かれ各自試合をしていた。

 通常は制限時間が設けられ、順番に交代していく流れなのだが、志鬼と清志郎の試合がそれを妨げていた。


 志鬼は長い手足と長身を活かしコート全体を伸び伸びと使い、力強くボールを弾き返す。

 清志郎は志鬼の身体の動きからボールが落ちる場所を予測し、テクニックを活かし華麗に応戦する。

 志鬼に点数が入れば、また清志郎が取り返し、清志郎がリードしたかと思えばまた志鬼がついてくる。

 そんなことを繰り返し、デュースから一向に動かなかった。

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