第68話

「ああ、もしもし、久しぶりやな、俺や。いきなりで悪いんやけど、ちょっと調べてほしいことがあってな……そうや、さっき送った奴の弱みを握りたいんやけど、お前の判断でやばくないとこまででええから……ああ、できれば早めに頼むわ、よろしゅうに」


 テンポのいい会話があっという間に終わると、志鬼はスマートフォンを耳から離しズボンのポケットに滑り込ませた。


「今のが前話していた探偵の人?」

「そうそう、調査代無料にしてくれる物好きなおっさん、って言うても依頼したの初めてやけど。二週間もあれば十分なん報告できる言うて張り切ってたわ」

「無料って……何かいいことでもしたの?」

「……さあ? ご想像にお任せするわ」

「何よそれ」


 あゆらはあきれたように息を漏らしつつも少し笑った。

 恐らくその探偵とやらも自分と同じで、志鬼に助けてもらったことがあるのだろうと想像がついたからだ。

 親に関係なく、志鬼個人の人徳があゆらは羨ましく、そして憧れのような気持ちも抱き始めた。


「すごいわね、志鬼は。判断力があるっていうか、でも無謀なわけではないし……」


 志鬼は大きく瞬きをしながらあゆらを見た。


 志鬼のこの能力は、昔から培われてきたものである。

 一般家庭では手放しに愛情を注がれ過ごすはずの幼少期から、志鬼はすでに跡継ぎとしての特訓を受けていた。

 いかに迅速に、最良の決断を下せるか。的外れな答えを出そうものなら、位の低い組員の指が飛ぶこともあった。

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