第65話

「私……何もわかっていなかったのですね」

「気づけたならいいじゃない、やり直せないなんてことはないわ、生きているんだもの」


 鈴子の言葉は一つ一つに重みがあり、あゆらの心に静かに落ちて留まった。


「でもおばさま、心配しないでください、私は一人ではありませんから」

「誰か協力してくれる人がいるの?」

「あ……は、はい、まあ、その、見た目は個性的で、少しお下品なのですが、頼り甲斐のある方が、いらっしゃる、ので」


 志鬼を思い出してしどろもどろになるあゆらを見て、鈴子は状況を把握した。


「そう、そんなに信頼できる恋人がいるなら、安心ね」

「——えっ!? あっ、ま、まだ全然、恋人とかでは!」

「まだ、ならこれからね」

「あ……」


 思わず出た本音に、鈴子は笑みを浮かべるとあゆらの手を握りしめた。


「ありがとう、あゆらちゃん、美鈴のために……」


 感極まり涙する鈴子に、あゆらは何も言えず首を横に振った。 


「あの子はきっと、まだここにいるわ。あゆらちゃんのこと、大好きだったもの。だからみんなで戦いましょう。私もあきらめずに、美鈴が自殺ではなかったことを世間に伝え続けるわ。真実を開示できた時、すぐに繋がるように」


 鈴子の台詞に、ああ、そうだ、とあゆらは思った。

 美鈴は命を持って、清志郎の非道を伝えてくれた。それにより、この先彼の犠牲者になるはずだった人々を救えるかもしれない。いや、救うのだ。清志郎を止められるのは、自分たちしかいないのだから。

 そう胸に誓いながら、あゆらは重なった鈴子の手に、今は亡き親友の温もりを感じた。

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