第63話

「亡くなった美鈴を見たらね、首に深い切り傷があって、それが死因だって。手首ならまだしも、頸動脈を自分で切って死ぬだなんて、聞いたことがないわ。傷の向きだって専門知識のない私からしても不自然だったし、そもそも自殺ならどうして凶器がなくなっているのか……おかしなことばかりだった」


 鈴子は素朴な顔を悲しみと怒りに歪ませていた。


「監察医の人や警察にももっとちゃんと調べてほしいと訴えたけれど、ダメだったわ。没落したおいえの私たちに手を貸してくれる権力者はいないしね。そんな時、あゆらちゃんが連絡をくれたのよ」

「監察医の方の名前は……」

「ええ、ここに」


 鈴子は着物の懐から名刺を取り出し、あゆらに渡した。そこには監察医の名前と、担当部署の電話番号が書かれていた。


「おかしいと思ったから催促して名刺をもらったのよ、それはコピーだから、あゆらちゃんに渡すわね」

「はい……ありがとうございます、おばさま」

「美鈴を殺した犯人と、監察医の人に、何か繋がりがあるのかしらね……あゆらちゃん、あなたは何を、どこまで知っているの?」


 鈴子の真剣な眼差しに、あゆらは思わずすべて話してしまいたくなるが、手に力を入れぐっと堪えた。


「おばさまには、きちんと形になってから報告したいと思っています。ですので、どうか、信じて待っていてくれませんか」

「……でも、もしも危ないことをするつもりなら、止めないと。美鈴のためにあゆらちゃんに何かあってはいけないわ。杏奈さんも悲しむでしょうし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る