第59話

 教室の空気が張り詰める。

 席から動こうとしていた清志郎は、志鬼に行く手を阻まれ、立ち止まっていた。

 あゆらは息を呑んだ。

 見た目も中身も対照的な二人が対峙する姿は、異様な光景だった。


 しかし、清志郎はそんな緊迫感を微塵も感じさせないように、自身より頭一つ分高い背の志鬼を見上げながら、にこやかに左手を差し出した。


「初めまして、野間口くん、僕は帝清志郎といいます。一応生徒会長をしているので、困ったことがあればなんでも話してくださいね、例えば…………危険を伴う無理な相談をされている、とか」


 最後の一文に、あゆらは鳥肌が立った。自分のことを示唆していることが明らかだったからだ。

 清志郎はペースを一切崩さずして、志鬼に「この件から手を引け」と言っている。

 それを瞬時に悟った志鬼は、清志郎の手を取ると、強く握りしめた。一瞬清志郎が眉を動かすほど痛みを感じる程度に。

 それは「引かない」という志鬼の答えであった。


「どうも、ご心配なく。おてんばなお姫様には騎士ナイトが必要やからな」


 あゆらに手を出すなと、間接的に威嚇をする志鬼。


「……そう、僕は家柄で人を判断したりしないから安心して、仲良くしよう」

「そらありがたいな、あれ、帝くん」

「どうかした?」

「なんでそこにメス入ってるん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る