第60話

 志鬼のその言葉に、清志郎は咄嗟に握手をしていない方の手でズボンのポケットを触った。

 ——まさか、凶器のメスはとっくに処分したはずで今日は持って来ていない。と、思っての行動だった。

 しかしすぐにそれは志鬼が自分をはめるためについた嘘だと、清志郎は気がついた。

 清志郎のこの反応により、志鬼は凶器がメスであり、彼が必要な時はポケットに忍ばせていたのだと決定づけた。


「ああ、悪い、なんか光った気がしてんけど俺の見間違いやったみたい、ただでさえ目細くて視界狭いのに視力落ちたかな」


 能天気に見せかけて、実は頭の切れる強者つわものだと、清志郎は志鬼への警戒レベルを上げた。


「……矯正した方がいいかもしれないね」


 顔は笑い、口調も穏やかではあったが、二人の間には目に見えない火花が散っていた。

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