第54話
不意に思い出される、志鬼の刺青。
確かに初めて見るそれは強烈な印象をあゆらに与えたが、それ以上に彼女の胸を震わせるものがあった。
――身体、すごかった。
そう心中で呟いたあゆらの表情は恍惚に満ちていた。
昨日は取り乱していたこともあり、冷静に見る余裕がなかったが、落ち着いて考えてみると、鬼の彫刻が施されていた志鬼の肉体自体がとても美しかったのだ。
着痩せするのか、服の上からだと細身に見える志鬼は、まさに脱ぐとすごい、という言葉が当てはまるほど逞しい身体をしていた。
ボクサーを思わせる逆三角の形に、無駄のない搾られた筋肉。だからこそあの刺青の迫力も映えるのだろう。
初めて目にした男らしい身体に、年頃のあゆらは興味津々だった。
――もう少しちゃんと見ればよかった、背中だけじゃなく前も……って何を考えてるの私は。
自分に対して恥ずかしくなってきたあゆらは、頭上に浮かぶ破廉恥な発想を掌で振り払った。
するとそこで、担任教師が部屋に入って来たため、生徒たちは皆大人しく席に着いた。
女教師は小さくため息をつくと、憂鬱そうな顔をしながら口を開いた。
「おはようございます、皆さん。昨日は悲しい出来事があり紹介が遅れましたが、実は昨日付けで転校して来た新しいお友達がいます……どうぞ、入って」
女教師に促され、教室のドアから高い背を屈めて入って来た人物に、一気に注目が集まる。
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