第53話

 それはつい先日まで友人と呼んでいたみどりと京子だった。二人はあゆらがいないところで、こぞって悪口を並べていたのだ。

 

 しかし、あゆらは少し驚いたものの、不思議なほど悲しくはなかった。

 期待をすればその分裏切りに傷つくが、あゆらはいかに自分が最初から彼女たちを信用していなかったのかを知った。

 本心から親しくしてくれたのは、やはりあの美鈴だけであり、くだらない体裁のために彼女を遠ざけてしまったことを、いつか必ず墓前に謝りに行こうと思った。


 あゆらが一思いにドアを開くと、中にいた二人がギョッとした顔で彼女を見た。

 あゆらはいつもより背筋を伸ばし、長い髪を掻き上げながら堂々と自身の席まで歩いて見せた。

 みどりと京子は肩をすくめながら、気まずそうにあゆらの側に歩み寄った。


「あ、あの、あゆらさん……」

「無理に話されなくてけっこうよ、お父様に告げ口してあなた方の生活を脅かすようなことはしませんから、ご心配なく。ああ、一つだけ言わせていただくけれど、お父様は私が絵を描いていることすら知らないので、あしからず」


 コンテストで裏工作がされていないことがわかると、みどりと京子は顔を真っ赤にして黙り込んだ。


 ああ、なんだかせいせいした。と、いっそ清々しい気持ちで、あゆらは椅子に座ると志鬼のことを考えていた。


 実は昨日、平手打ちをしたまま帰ってしまったため、志鬼の連絡先も、学年やクラスもわからない状態だったのだ。

 とは言えああも目立つ風貌の人間はそういないので、探せばすぐに見つかるだろうと、あゆらは休み時間を待つことにした。

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