第50話

 親をバカにするような言い草に、鏡志郎は声を荒げ恫喝したかったが、清志郎を見て動きを止めた。

 彼は微笑んでいた。

 ——いや、口角が上がっているだけで、目は一切笑っていない。

 まだ年端のいかない彼の底知れぬ非情な瞳は、父にさえ異様な恐怖心を与えた。


「凶器のメスはしっかり処分しましたから、それだけで十分でしょう?」

「誰がお前のために必死になっていると思っているんだ……」

「ああ、そこは間違わないでください。僕のためじゃない。優秀な息子がいる有名外科医である自分の名誉を守るため、ですよね」


 悪びれず辛辣な言葉を並べる清志郎に、鏡志郎は思わず顔を覆った。


「……なぜだ、なぜなんだ、清志郎、なぜお前は、いつからそんな風になってしまったんだ、昔はいい子だったじゃないか、私の言うこともよく聞く……」

「さあ……どうしてでしょうね? 自分でも、よくわからないんですよ、いつからこうなってしまったのか……」


 清志郎がどこか遠くを眺めて言った時だった。 

 赤茶色の扉がノックされ、ノブが回ると廊下から一人の女性が入って来た。

 きついパーマの当たった黒いセミロングの髪、豪華な刺繍の入ったワンピースを着たつり目の彼女は、清志郎とは似ても似つかなかった。

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