第51話
「あら、清志郎さん、帰って来ていたのですか。なら私に挨拶くらい」
「ま、まあ、すまない、今朝学校でクラスメイトが亡くなったところなんだ、そっとしておいてやってくれないか」
「……父さん、母さんは?」
清志郎の口から出た言葉に、鏡志郎は頭を抱え、女は露骨に苛立った顔をした。
「お前の今の母親は、この目の前にいる彼女なのだと、何度言わせれば気が済むんだ」
「嫌だな父さん、僕の母さんは一人だけですよ。こんな腐った野良猫みたいな人じゃありません」
「なんですって……!」
「もう、もう、やめてくれ、私に対する当てつけなのか? 頭が変になりそうだ」
二人が取り乱す意味をまったく理解できなかった清志郎は、ぼんやりした頭で部屋を後にした。
清志郎が「母さん」と呼んでいるのは今の
「母さん、僕、バイオリンのコンテストでよい結果を出しました。次はもっと上に行けるようにがんばります」
廊下に敷き詰められた豪華な絨毯を歩きながら、清志郎は誰かと会話をするように呟いていた。
そして、地下に続く階段の前で立ち止まる。
しばし、その仄暗い先にある開かずの倉庫に視線を落とすと、清志郎の脳内に何かがよぎった。
しかし清志郎の中にあるブレーキがその再生を止め、砂嵐と消し去る。
「母さん、母さん、どこにいるんですか、僕がいい子にしていたら、帰って来てくれますか、また、頭を撫でてくれますか……」
清志郎はゆっくりと、出口のない廊下を徘徊し続けていた。
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