第49話
あゆらと志鬼が話をしていた頃、都心の一頭地にある三百坪を越える豪邸で、向かい合っている二人がいた。
歴史深そうな油絵が飾られた一室で、アンティーク調の椅子に腰かけた細身の中年男性は、木目の細やかな机に両肘をつき、目の前に立つ人物を見据えていた。
「……清志郎」
清志郎は父の前で、後ろ手を組みながら素知らぬ顔で立っていた。
「……いくらなんでも、おいたが過ぎるんじゃないか。多少のことなら目を瞑るが、殺しを揉み消すのは簡単なことではない。私たちに反発している勢力だっているんだ。案の定死因を怪しんだ両親が解剖を求めてきた……今回はこちらの派閥の監察医に口利きしたから自殺で処理できるだろうが、二度とこんなことがないようにしてほしい。次もうまくいくとは限らないからな」
殺人自体を責めず、揉み消す難しさを強調する。これは、親が子を躾けるのに、正しい方法だろうか。
言われた当人である清志郎は、鏡志郎が話している間も視線をあちらこちらに動かし、時にあくびをしていた。
「清志郎、聞いているのか……! お前の話をしているんだぞ!」
痺れを切らす鏡志郎に、清志郎はようやく彼と目を合わせた。
「聞いていますよ、父さん。何度も何度も同じことばかり繰り返して、まるで泳いでいないと死んでしまう魚のように滑稽な姿ですね」
「な、に……」
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