第43話

 どれほど経ったか、時を忘れる頃にようやく泣きやんだあゆらは、赤くなった目を擦りながら顔を上げた。

 そしてゆっくりと巡らせた視線の先には、ただ静かに座し、澄んだ青空を見上げる志鬼がいた。

 しばし、二人の間に穏やかな時が流れた。

 無言だが、気まずさはない。沈黙が怖くない相手とは、簡単に見つかるものではない。


「……ごめんなさい、お見苦しいところを」

「いやぁ? 泣き顔まで綺麗やからびっくりしたわ」

「か、からかわないでよ」

「ほんまやで、実は一昨日助けた時もっと話しとけばよかったってちょっと後悔してん。で、また会いたいな思てた矢先にこれや、絶対運命やな」


 うんうん、と長い腕を組みながら頷く志鬼に、思わずあゆらの気持ちがほころぶ。


「自分を責める気持ちはようわかるけどな、あゆらはなんも悪くないし、いつまでも沈んでたって状況が好転するわけやない。大事なんは今できることをすることや」

「……志鬼って、本当に極道? 言ってることがすごくまともなんだけれど」

「人に言うのは簡単なんやけどな、はは」


 生まれた境遇を嫌っているなら、恐らく刺青も好きこのんで入れたわけではないのだろう、親友を失ったことと、何か関係があるのかと思ったが、あゆらは深く突っ込まなかった。いつか、志鬼から話してくれる日を待ちたいと思った。


「なあ、あゆら、俺が協力したる。ガキ二人知恵絞って、なんとか犯人を豚箱にぶち込もうや」

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