第34話
あゆらは夢の中にいるかのような不思議な気分で、前方に立つ人物を見ていた。彼はこの学校の制服に身を包み、白いシャツからは真っ黒な長袖のインナーが透けていた。
不意に志鬼が振り向き、はだけた胸元の金のネックレスが揺れると同時に、あゆらと視線が合った。
急に現実味を帯びた緊張感に、あゆらは焦りながら声を漏らす。
「あっ、あの」
「……誰や?」
あゆらの動揺をよそに志鬼はそっけなく言うと、すぐに目を逸らし人混みの中に消えて行った。
あゆらは少なからずショックを受けた。
確かに一昨日の夜、助けてもらった時は暗がりだった上まともに話すこともできなかったため、記憶になくても仕方がないのかもしれない。
しかしあゆらにとっては非常に印象的だったあの出来事を、彼が綺麗さっぱりわすれているのは悲しかった。
――野間口志鬼、って名前なのね……。
それでもあゆらの中で志鬼の存在は強烈に膨れ上がる一方だった。
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