第33話

 それと同時に、あゆらは自らの価値のなさを痛感した。父親がいなければ存在している意味すらないのでは、と。

 屈辱と悲嘆に胸が張り裂けそうになっていた時だった。


「その遺体、ちゃんと解剖した方がええと思いますよ」


 緊迫した場面に不相応な、関西独特の訛り口調が響いた。


 俯いていたあゆらが、徐に顔を上げた先に見たものは、またもあの、目の覚めるような黄金だった。


 ——う、そ……。


 あゆらは心中でそう呟くと、高い背の頂にある一つに縛られた金髪を傍観していた。


「おいきみ、勝手にここに来られちゃ困——おいっ!?」


 警官が止めるのを無視して、救急隊員が運んでいる担架のビニールシートを捲り、美鈴の遺体をしげしげと確認する少年。

 人の死体など見慣れているかのように、一切怖がる様子もない。

 

「ほうほう、なるほど、これは明らかに他殺やな、なんか小さい鋭利な刃物で首筋をざっくりや、向きから見たら左利きの犯行ってところかな」

「部外者は立ち入り禁止だ! 一体なんなんだきみは!」

「俺? 俺は、野間口のまぐち志鬼しき言いますけど」

「野間口、志鬼……?」


 それを聞いた警官は少し考えた後、何かを思い出したような顔をして、志鬼から目を逸らした。


「きみ、こういうことは今後ないように」

「やめろ、面倒になるから関わるんじゃない、行くぞ」

「え? あ、は、はい」


 年配の警官に耳打ちされ、若い警官も美鈴の遺体とともにその場から立ち去った。

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