　瞬間、あゆらは言葉を失い、全身の力が抜けその場に座り込んだ。

　いつもかけていた丸い黒縁のメガネをそのままに、昨日まで明かりを持っていた瞳は固く閉ざされ、二度と開くことはなかった。

　あゆらの中に、美鈴との幼い頃からの記憶が走馬灯のように蘇った。

　“いつかまた、昔のように笑い合えたら”

　しかし、あゆらと美鈴、二人にとってのその“いつか”は、永遠に叶わぬ願いとなった。

　時が止まったように動けなくなったあゆらは、後方からする聞き慣れた声を拾うと、ゆっくりとそちらに顔を向けた。

　人混みの最前列にいた清志郎は、さも儚げな表情を浮かべていた。

　それだけではない。

　彼は泣いていた。

　本当に涙を流し、悲しみに打ちひしがれた聖人のような姿をしていたのだ。

「なんてことだ……かわいそうに、こんな若さで、あまりにひどい、この世には神も仏もないのか……」

　涙は本心から悲しむか、嬉しい時にしか出ないものだと信じていたあゆらにとって、この光景は衝撃だった。

　そしてあゆらは確かに、清志郎が顔を包み隠した左手の下で、微かに笑っているのを見たのだ。

　あゆらの中でプツリと何かが切れる音がした。

「人殺し……」

　あゆらは綺麗な顔を修羅のごとく歪め、勢いよく立ち上がると清志郎に食ってかかった。

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