第30話

 翌朝、あゆらが学校の正門を通り抜けると、何やら校内が異様な空気に包まれているのを感じた。

 目についたのは、出入り口付近に停まっているパトカー。そして救急車。

 あゆらはひどく胸騒ぎがして、人が集まっていく方向に急いで駆けつけた。

 体育館の前でざわつく生徒たちを制するように、教師たちが声がけをしている。

 あゆらは全身が心臓になったかのように、嫌な音が脈打つのを感じた。

 

「あっ、あゆらさん!」


 すでに人だかりの中にいたみどりと京子に呼ばれたあゆらは、急ぎ二人の元へ寄った。


「これは一体、なんの、騒ぎ……?」

「生徒が亡くなったようですわ」

「自殺かもしれないって、まだいろんな話が飛び交っていて、何が本当かわかりませんが」


 その言葉を聞いたあゆらは、頭で考えるよりも先に身体が反応していた。

 みどりと京子が止めるのも聞かず、人並みを掻き分け強引に体育館の中へ入った。

 するとそこに、青いビニールシートをかけられた担架を見つけた。

 汗が滴る。嫌な予感だけが駆け巡る。


「ちょっと、きみ、入られては困るよ」

「あ、あのっ、誰、誰ですか、それは、私の、私の親友じゃ、ない、ですよね……!?」


 前のめりになるあゆらの腕を掴み動きを制していた警官が、彼女の様子を見て他の警官に声をかけた。


「親しい間柄のようです、少しだけ顔を」

「……ショックを受けると思うけど、大丈夫かい?」


 警官に促され、あゆらは担架の前に来た。

 僅かに捲られたシートから覗いたのは、ろうのように青白くなった美鈴だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る