第27話

 あゆらは体育の授業中、隙を見て美鈴に「後で話がある」と耳打ちをし、女子更衣室に残るように伝えた。

 さすがに更衣室ならば清志郎に気づかれないと踏んだあゆらは、そこで例の件を話すことにしたのだ。


 体育が終わり、女生徒たちが更衣室を出て行く中、あゆらと美鈴はいつも仲良くしているグループの友人に適当な理由をつけ二人だけ最後に残った。

 念のため更衣室の鍵を閉めると、あゆらは美鈴に向き直り、真剣な面持ちで口を切った。


「……美鈴」

「どうしたの……あ、どうしたんですか? あゆらさん」

「敬語はいらないわ、名前にさんもいらない、前みたいに呼んでちょうだい」


 美鈴の親の経営が破綻する前は、二人は敬語や敬称もつけずに話せる唯一の親友だった。

 あゆらにそう言われた美鈴は、無邪気にも喜びの表情を見せた。


「嬉しいな、こんな風に二人で話すの、何年ぶりだろう」

「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう? ねえ、美鈴、私はね、見たのよ」

「え……?」

「昨日の夕方、帝くんに……ひどいことをされている、ところを」


 口にするのも嫌な事実を、あゆらは苦しげな表情で絞り出すように述べた。

 すると案の定、美鈴の丸メガネの奥にあるつぶらな瞳が動揺に満ちた。


「な、んで、それ」

「たまたま近くにいて、大きな音がしたから何かと思って行ったのよ。そしたら部屋が少し開いていて……気になって覗いてみたら……」


 美鈴はあゆらに一部始終を見られていたと知り、悲痛に目を細めた。

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