第18話

 あの後、急ぎ足で駅に到着したあゆらは公衆電話から専属の運転手を呼び出し、無事帰宅した。

 あゆらの家は山側の閑静な高級住宅地にある。富裕層ばかりが住む土地の中でも、一際目を惹く真っ白な西洋風の大豪邸。きんで作られた成人男性よりも背の高い門を抜けると、広々とした庭には番犬のドーベルマンが二匹いる。

 あゆらは帰宅を喜ぶ飼い犬を撫でながら、遠く離れた玄関に辿り着くとようやく家の中に入った。


 数名いるメイドたちは夜七時までが勤務時間のためもういない。

 扉が開く音を聞き、出迎えたのは母親だった。ラベンダー色のネグリジェに身を包んだ彼女は、カプチーノ色の巻き毛を揺らしながらあゆらに声をかけた。


「おかえりなさい……あゆら」


 どこか気怠げな様子の彼女に、あゆらはただいまの言葉もかけず、通り過ぎてリビングに行く。

 母である岸本きしもと杏奈あんなは、そんな娘の後を焦ったようについて行く。


「あの、あゆら……今日はずいぶん遅かったけれど、何かあったの……?」


 顔色を窺うように聞く杏奈に、あゆらはひどく苛立ちを覚える。


「そのおどおどした態度おやめになって、見るに耐えませんわ」

「ごめんなさい、でも、あの、あゆらに何かあったら、私が幸蔵こうぞうさんに叱られてしまうわ、あなたのことは私に任せていると言われているから……」

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