第17話

 この光景は、あゆらにはあまりに衝撃的だった。いや、刺激的と言った方が相応しいかもしれない。

 清志郎の暴挙を見た時とは、正反対の感情が湧き立った。


 再び静寂が訪れると、金髪の彼は三人がすっかり伸びていることを確認した後、ラフなジーンズのポケットに手を入れ、無言で踵を返した。


 目と口を丸く開いたままのあゆらは、それを見て我に返ると懸命に声を上げた。


「あ、あのっ……!」


 せめて助けてくれたお礼を言わなければと口を開いたものの、驚きと興奮のせいでうまく言葉が出なかった。


 すると彼は振り返り、あゆらを見た。

 糸のような細いつり目に、高い鼻、横に幅広い口。美形とは言えなかったが、どこか雰囲気のある個性的な顔つきをしていた。


別嬪べっぴんさんがこんな暗い場所一人で歩いてたら危ないやろ、気をつけや」


 ついさっきまで鬼のような力を披露していたとは思えない、軽快な口調と気さくな笑顔。

 そのギャップは、彼の容姿を愛嬌あるものへと変化させた。

 その言葉だけ残し、少年は名も名乗らずその場を去って行った。 

 

 ――あ……結局、お礼、言えなかったわ……。


 清志郎とは違う、低くやや掠れたような男らしい声。

 遠ざかる彼の背中を見送りながら、あゆらは胸が熱くなるのを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る