第16話

「ぐ、が、が……」


 蛙がうめくような醜い声の先を、あゆらは急ぎ振り返った。

 そしてそこで、運命の金色を目にする。

 

 日本人離れした背の高さに、しなやかに伸びた長い四肢。それらのいただきに据えられた頭髪は街頭に照らされ星屑のように輝いていた。

 肩につく程度の金髪を襟足で束ねた男は、右手で細い男の首根っこを掴んでいた。その足は地から浮いている。

 先ほどまであゆらの身を拘束していた男を、まるで赤子のように軽々片手で掴み上げた彼は、野球ボールを投げるように振りかぶった。

 次の瞬間、すぐ側に茫然と立ち尽くしていた太った男にそれを投げつけると、二人は勢いよくコンクリートの地面に倒れ込んだ。

 

 それを見た家の前に待機していた背の低い男は、苛立った顔つきで立ち上がるとおもむろに金髪の彼に近づいた。

 その手にはいびつな刃先をした、サバイバルナイフが握られていた。

 あゆらは激しく動揺した。

 武器を出すなんて卑怯だと、いくら強くても怪我を負うのではと思ったのだ。

 しかし、そんな杞憂は瞬く間にして消え失せる。


「調子に……乗ってんじゃねえぞ、てめえぇ!!」


 怒声とともにナイフを振りかざし、襲い来る男。

 しかし、迎え撃つ彼は笑っていた。

 軽く握り拳を作ると、その右手を振り上げ、一瞬にして男の頬に食らわせる。

 あまりの速さに、あゆらには何が起こったかわからないほどだった。

 あゆらが理解した時には、背の低い男はすでに宙を舞い、門を飛び越え玄関扉にぶつかって気絶していた。

 圧倒的リーチと力の差で、ナイフが自身に及ぶより先にパンチをお見舞いしたのである。

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