第15話

 背筋に冷たい汗が伝う。

 あゆらは急ぎ逃げ出そうとしたが、一番近くにいた細い男にあっという間に捕らえられてしまう。

 左腕を掴まれ一気に男の元まで引き寄せられると、腰に腕を巻きつけられ、身動きが取れなくなってしまう。


「いやっ……離し……ッ——!」


 腰を掴んでいないもう片方の手で口を抑えつけられ、声すら出せなくなる。

 

「その制服、望星ほうせい高校のやつだろ、いいな、いいなぁ、望星のお嬢様がこんな時間にここを通るなんて、珍しいなぁ、今日張っていてよかったなぁ」

「きっと初めてだよねぇ、大丈夫大丈夫、痛いなら薬で気持ちよくしてあげるからねぇ」


 太った男が、鼻息を荒くしながら楽しげな表情であゆらに近づく。


 細い男、たった一人の力がこれほど強いのかと。卑劣な男は皆こうして、抵抗できない女を蹂躙じゅうりんしているのかと。

 あゆらは恐怖に凍えた身体を震わせるしかなかった。

 放課後……つい数時間前までは誰もが羨むまばゆい青春を送っていたはずなのに、そんな光はどす黒い渦に一瞬にして飲み込まれ消えた。

 それともこれは、美鈴を置いて一人で逃げた罰なのか……

 あゆらの目尻に滲む涙。強く瞼を閉じ、その雫が頬を伝おうとした。


 ——刹那、突如身体が楽になる。

 背後からかかっていた力から解放されたあゆらは、膝から地面に崩れ落ちた。

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