第19話
その台詞に、あゆらはまた苛立ちが増す。
嘘でも父や自分のためではなく、娘であるあなたが心配だから、くらい言えないのか、と。
「お母様がそんな風だから、お父様は今日も愛人のところではなくって?」
思わず嫌がらせのように杏奈を傷つける言葉が出る。それを聞いた彼女はとても悲しそうに目を細め、俯いた。
あゆらは母親似である。つまり、杏奈もあゆらと同等に見目麗しいのだが、どことなく疲れたように幸の薄い雰囲気がある貴婦人だった。杏奈も由緒正しい家系の出ではあるが、親……つまりあゆらの祖父の事業が傾いた際にこの岸本家に嫁がされた。平たく言えば、家のために売られたようなものである。
その負い目のせいか、杏奈は常に
「……ごめんなさいね、あゆら、私が、弱くて」
か細い声を出す母に、あゆらは胸が痛むのを感じた。決して母親が嫌いだというわけではない。いや、むしろ好きなのだろう。だからこそ許せないことがある。
幼な子のようにわがままに甘えることもできず、大人のように自分の気持ちをうまく噛み砕いて説明するような冷静さも持てない。
多感な十六歳は、子供と大人の狭間で揺れ動いていた。
「……もう、今日は食事もいりませんから、お風呂に入って休みます」
「そ、そうね、わかったわ、おやすみなさい、あゆら……」
目も合わせずにそう伝えると、あゆらはシャワーを浴びて自室へこもった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます