第13話

「あっ、わ、私……美鈴を置いて……置いて、来てしまっ……」


 恐怖のあまり、美鈴を助けることなど微塵も浮かばずに自分だけ一目散に逃げ出したことを思い出したあゆらは、血の気が引いた。


「ど、どうしよう、どうし……ま、まさか、あのまま」


 あのまま、清志郎が美鈴にメスを突き立てていたら——?

 そんな最悪の事態を予想してしまったあゆらは、必死に首を横に振った。


 まさか、さすがに、そこまでのことをするはずがない……と、あゆらは心の中で自身に言い聞かせた。


 どうすることもできないまま、ただ時は過ぎ、僅かながらの冷静さを取り戻したのは、すっかり日が沈んだ頃だった。

 抱えていた頭を上げ、辺りが暗くなっていることを知ったあゆらは、驚いて時刻を確認しようとスマートフォンを探した。

 ——が、そこで鞄を美術室に置いたままだったことにようやく気がつくと、しまった、と顔を顰めた。


「ああ、スマホも鞄の中だわ、どうしましょう……」


 ふと街灯に照らされた公園の柱時計を見つけると、針は夜の八時を回っていた。もう部活の時間も過ぎ、学校は閉まっているだろう。

 しかし例え開いていたところで、あんな場面に出くわした後だ、とても学校に戻る気にはなれなかった。

 

 幸いポケットには可愛らしい小銭入れが入っていたため、電車の駅に着けば公衆電話を利用して家か専属の運転手に連絡することができる。

 あゆらは息をつきながら、重い身体を起こし、駅に向かうことにした。

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